「個の時代」だかこそ、個の力を集結すべき
――これからの10年は楽しい道を選んでいくのですか。
宇佐美:うーん、楽しいだけではないですけどね。でも、今年50歳なって残りの時間はあと10年になりました。起業して20年でここまでしか来ていないのに、あと10年でどこまでやれるのだろうという不安は強くありますね。
平尾:1999年に起業されているから、創業されて23年になるんですよね。でも、それを実現できる方は本当に少ないですからね。これまで、モチベーションの波はありましたか。外から見ると、整えながらやっていらっしゃるイメージでしたけど。
宇佐美:ありましたよ。でも、ほかの人と比べると、比較的ボラティリティは少なく、上のほうで安定していた感じですね。
平尾:知的好奇心が高いと、複雑な課題を解いていくのは楽しいですよね。あるいは、苦しいことに慣れすぎて、もう感じなくなっているとか(笑)。
宇佐美:でも、それはあるかもしれない(笑)。経営者は耐えています。
――ランナーズハイという表現もされていました。モチベーションの源泉は平尾さんがおっしゃったように、難しい問題を解いていくことですか。
宇佐美:モチベーションの源泉は何だろうな……。
平尾:あまり下がらないように見えますよね。
宇佐美:もともと、事業領域は何でもよかったんです。やるからには世界を変えるようなすごいことがやりたいと思って会社をつくり、いろいろな事業もやってきました。会社を立ち上げた当時は、売上10億円を超えたらすごいのかな、社員数が100人を超えたらすごいのかな、と思いながらやっていましたが、実際にそういうフェーズになっても、全然すごくない。いまだに、すごいことをできている実感がないんです。だから、あと10年で実感できるぐらいまでやりたいというのが原動力ですね。
平尾:なるほど。
宇佐美:そのためには、ひとりだけでは絶対にできない。自分以外のもっと優秀な人たちに力を借りながら一緒にやっていく形にしていかないと、実現しないですよね。
平尾:個人の時代であるがゆえに、多くの方は、YouTuberやインフルエンサーなど、会社経営とは別の世界に向かっています。そんな時代だからこそ、宇佐美さんのように大きなビジョンを持ち、多様な人のダイバーシティを生かすことで問題を解決することこそが企業経営だと、改めて実感することができました。彼らが目指す世界との違いを出さなければならないのが企業の世界だと思います。
――個人の力が強くなっても、ひとりだけで何かやるのではなく……。
平尾:宇佐美さんのように、大きいビジョンを持ち、それを実現しようとしている人は起業家に向いていると思います。私は「別のやり方」が面白くて経営を続けている気がします。人との違いを出しながら大きな結果を皆で出せるのが面白い。自分はアーティストにはなれないけれど、「あの人がやったあれって面白いよね」みたいな声があると、自己肯定感が上がるタイプです。でもそれは、起業家に限らずこれからのビジネスパーソンにも言えることだと思います。
株式会社じげん代表取締役社長執行役員 CEO
1982年生まれ。2005年慶應義塾大学環境情報学部卒業。東京都中小企業振興公社主催、学生起業家選手権で優秀賞受賞。大学在学中に2社を創業し、1社を経営したまま、2005年リクルート入社。新人として参加した新規事業コンテストNew RINGで複数入賞。インターネットマーケティング局にて、New Value Creationを受賞。
2006年じげんの前身となる企業を設立し、23歳で取締役となる。25歳で代表取締役社長に就任、27歳でMBOを経て独立。2013年30歳で東証マザーズ上場、2018年には35歳で東証一部へ市場変更。創業以来、12期連続で増収増益を達成。2021年3月期の連結売上高は125億円、従業員数は700名を超える。
2011年孫正義後継者選定プログラム:ソフトバンクアカデミア外部1期生に抜擢。2011年より9年連続で「日本テクノロジーFast50」にランキング(国内最多)。2012年より8年連続で日本における「働きがいのある会社」(Great Place to Work Institute Japan)にランキング。2013年「EY Entrepreneur Of the Year 2013 Japan」チャレンジングスピリット部門大賞受賞。2014年AERA「日本を突破する100人」に選出。2018年より2年連続で「Forbes Asia's 200 Best Under A Billion」に選出。
単著として『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』が初の著書。