メーカー(製造業)の仕事は、自動車、電機、食品……などの商品・サービスをつくって売ることですが、お客さまに満足いただけるものを過不足なくつくって遅滞なく届けるために、メーカーにはさまざまな機能があります。オムニチャネルを実現するために、顧客管理や物流はどのように変わってきているのか。メーカーを目指す人なら知っておきたい基本について、書籍『全図解メーカーの仕事 需要予測・商品開発・在庫管理・生産管理・ロジスティクスのしくみ』から紹介していきます。
ネット通販の台頭やオムニチャネル対応などの小売業におけるビジネス変化は、物流にも大きな影響を与えます。オムニチャネルを実現するためには、顧客情報の統合とあわせて、在庫情報の一元化が求められます。一人の消費者が、リアル店舗やネットで購入した履歴を一つにまとめて管理することを顧客情報の統合とよびます。店舗で購入した時のポイントがネット通販でも利用できるのは、顧客情報の統合のおかげです(図17-2)。
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ただしこれには、消費者を統一のIDで管理することが必要になり、リアル店舗でのID提示やウェブサイト上でのログインなどの手間が増えます。メーカーにおいては、情報のセキュリティを確保しなければなりません。
在庫情報の一元化とは、リアル店舗の在庫とネット通販の在庫に関する情報をまとめて管理し、在庫の所在を明確にすることです。店舗で欲しい商品の色やサイズがなくても、別の店舗や倉庫に在庫があれば、それを自宅などへ直送してもらえるのがオムニチャネルの大きなメリットです。
ここで難しいのが、リアル店舗で売れた数もネット通販で売れた数も、できるだけリアルタイムで把握し、常に在庫情報を更新することです。例えば1日に1回、夜間でしか情報が更新されないとすると、昨夜時点の在庫情報で今日の注文に対応することになります。ある消費者が購入しようとした商品が、ほかの店舗やネット通販ですでに売れてしまっている可能性が出てきてしまうのです。
これまでは店舗に届けることが物流の役割でしたが、倉庫在庫や店舗在庫などを一元化し、消費者に届けるまでを担う必要が出てきました。
在庫情報管理の高度化
このように、在庫の情報管理はかなり難しいのですが、技術の進歩によって、これを解決できる可能性が高まっています。その一つが、RFID(Radio Frequency IDentification)とよばれる技術です。これは専用タグのメモリに記録されたデータを対応のスキャナを用いて読み書きするシステムです。身近な例がJRのスイカ(Suica)などの交通系ICカードです。改札機がスキャナの役割を果たし、スマートフォンやカードによる無線通信だけでデータの読み書きができます。
これが商品を識別するために、バーコードと同じような使われ方をします。ユニクロの店舗では、無人レジにRFIDの技術が使われています。商品についているタグのバーコードをレジでスキャンしなくても会計処理が可能になりました。すべての商品にRFIDタグがついて電波を発信しているため、店舗内にあるすべての商品在庫を読み取ることが可能になりました。
これまで店舗での棚卸しには、商品を1点ごとに読み取る必要があり、店舗スタッフが数時間かけて行っていましたが、今はスキャナをかざすだけで簡単に読み込めるため、大幅に時間短縮されました。
コンビニエンスストア業界では、RFIDの対抗馬として、アマゾンゴーでも採用されている画像認識の技術が出てきました。画像認識の技術は、商品の識別をRFIDではなく、画像情報から解析し、識別します。RFIDの場合は商品一つひとつにタグを付ける必要がありますが、画像認識の場合は、画像データさえあれば可能であり、コストの観点から注目されています。
戦略的に物流をサービス化する
リアル店舗とネット通販の在庫連携だけでなく、商品の受け取り方法も多様化が進んでいます。店舗や自宅のほか、自宅近くのコンビニエンスストアや、最寄り駅の宅配ロッカーなどでも受け取れるようになっていることはご存じでしょう。
例えばヤマト運輸は、Click & Collectサービスという、ネット通販で購入した商品を、購入者の希望の店舗で受け取ることができるしくみを作りました。あらかじめ指定しておくと、通勤帰りにスーパーやクリーニング店で商品を受け取ることができます。
機能での差別化が難しい商品や、複数の店舗で販売されている商品の場合、消費者は配送サービスの違いで購入先を変えることがあります。特に、配送費無料や着日時指定などは、消費者にとって魅力的なサービスでしょう。
月額定額で特典を得られる「アマゾンプライム」は、アマゾンの強みが物流であることを示しています。アマゾン以外で同じ商品が販売されていた場合でも、プライム会員は当日配送や送料無料のサービスによりアマゾンを選ぶことにつながります。当然、こうした戦略的な投資には多くのコストがかかり、ほかの企業がアマゾンのように物流へ投資するのはたやすくありません。物流を他社との差別化や競争力のポイントとするならば、物流サービスのデザインが重要です。