メーカー(製造業)の仕事は、自動車、電機、食品……などの商品・サービスをつくって売ることですが、お客さまに満足いただけるものを過不足なくつくって遅滞なく届けるために、メーカーにはさまざまな機能があります。近年よく耳にする「オムニチャネル」は、いつごろからどのように広がってきたのでしょうか。メーカーを目指す人なら知っておきたい基本について、書籍『全図解メーカーの仕事 需要予測・商品開発・在庫管理・生産管理・ロジスティクスのしくみ』から紹介していきます。
オムニチャネルは、2011年に米国の百貨店メイシーズが行った取り組みです。店舗で商品を見てネットで購入するというショールーミングへの対策です。ショールーミングで買い物されると、小売店の売り上げにはなりません。そこでメイシーズが実店舗の在庫や顧客情報を企業全体で統合して管理し、消費者が店舗で選んだ商品を倉庫から自宅へ直送するサービスを開始しました。この新しい購買体験は、日本でも2013年頃にメディアで取り上げられました。
図17-1のとおり、店舗だけでしか購入できないシングルチャネルから、雑誌やカタログなどの通販での購入の選択肢を加えたマルチチャネル、それらの複数の販売チャネルでの顧客データを統一したクロスチャネル、さらにその購買体験を進化させて、デジタル化によるリアルとバーチャルを融合して店舗でもインターネットからでもシームレスに商品を購入することができるオムニチャネルを多くの小売企業が目指すようになりました。
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その流れは加速し、2016年に中国のアリババは、ネット販売とリアル店舗の融合をニューリテールとよび、純粋なネット通販の時代が終焉すると述べています。アリババのいうニューリテールとは、消費者がネット上とリアルの店舗の区別を意識することなく、欲しいものが、欲しいタイミングで、欲しい場所で入手できるという購買のしくみで、まさにオムニチャネルを示しています。
さらに、2020年のコロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、さまざまな業界でインターネットを活用した購買行動が加速しました。商流が大きく変わるということは、それを支える物流においても変革が求められるのです。
ネット通販で直接顧客に販売するD to C(Direct to Consumer)ビジネスの海外事例としては、米国のコスメGlossierやスニーカーAllbirds などが知られていて、日本でも男性化粧品バルクオムや、高級シャンプーボタニストなどはD to Cブランドとして注目されています。
こういった新しいブランドだけでなく、これまでリアル店舗での販売をメインにしてきたメーカーや小売業のビジネスにおいてもD to Cのビジネスが注目されているといえるでしょう。
もっとも、D to Cのビジネスは、リアル店舗での販売を前提とした従来のビジネスの売り上げを奪う(いわゆるカニバリゼーション)可能性が高く、簡単ではない経営上の判断が求められる側面もあります。特に新しいブランドほどは大胆に進められないといった難しさがあります。
技術の進歩を起点とした消費者の購買心理や行動の変化に対してメーカービジネスの要素としての物流にどのような影響があると考えられているのでしょうか。国内外の企業の事例を紹介しつつ、ビジネスの最前線で起こっていることについては別の回でご紹介します。