メーカー(製造業)の仕事は、自動車、電機、食品……などの商品・サービスをつくって売ることですが、お客さまに満足いただけるものを過不足なくつくって遅滞なく届けるために、メーカーにはさまざまな機能があります。最近、物流のひっ迫状態について耳にされる方も多いのではないでしょうか。その現状は押さえておきたいもの。メーカーを目指す人なら知っておきたい基本について、書籍『全図解メーカーの仕事 需要予測・商品開発・在庫管理・生産管理・ロジスティクスのしくみ』から紹介していきます。

「もの」が運べない状況に拍車をかけているのが、個人宅に届ける消費者物流の問題です。このメーカーの販売活動の最終工程ともいえる物流をラストワンマイルといいます。インターネット通販に取り組むメーカーが増え、ラストワンマイルの問題は非常に重要になっています(図16-3)。

その一つの大きな問題は宅配クライシスです。このよび方は、ドライバー不足によって商品を届けられなくなる危険性を警告しています。原因は労働人口の減少に加え、インターネット通販の拡大による小口配送の急増です(図16-4)。大手配送会社のヤマト運輸や佐川急便、日本郵便ですら、配送キャパシティが不足してきています。

メーカーに就職したいなら知っておきたい「ラストワンマイルにおける宅配クライシス」図表16-4宅配便数の取扱個数と輸送会社のシェア
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ここにはさらに再配達の問題があります。日中は商品を受け取れない単身世帯が増加したことで、1件の注文を届けるために何度も訪問する事態が発生しています。

また、インターネット通販会社は顧客の利便性を上げる当日配送のサービスを重視しています。当日配送は、事前に配送計画が立てられないため、急な対応でドライバーの負担は増えます。これらがドライバー不足の問題を深刻化させているのです。

トラックドライバーの待遇改善が必要

トラックドライバーの負担が増える一方で、その待遇はなかなか改善されていません。2020年の国土交通省の調べでは、宅配便の個数は43億2349万個となり5年連続で過去最高を更新しました。そんな中、宅配便のシェア1位のヤマト運輸ですら、配送運賃を27年間値上げしていませんでした。この理由は、1990年に「物流二法」とよばれる法律が施行され、トラック輸送業界は規制緩和による新規参入が増加し、価格競争が激化したためです。

しかしついに2017年、インターネット通販の最大手のアマゾンに対して、ヤマト運輸が宅配便の取扱件数の制限と値上げを交渉しました。取り扱う荷物数が増えても、再配達や当日配送などの負担増加によって、収益が悪化する構造になっていたからです。これをきっかけに配送会社の運賃の値上げが一斉に始まりました。

ところがこれに対抗するように、アマゾンや楽天、ヨドバシカメラなどは自社で顧客に届ける配送を開始しました。自社で配送機能をもつことで、配送会社の値上げによるコスト増の影響を抑えようと考えたのです。

この結果、配送会社の収益は劇的には改善せず、トラックドライバーの賃金収入は全産業平均よりも2割低く、労働時間は2割多いという状況が続いています。メーカーのビジネスに関わる実務家も、こうしたラストワンマイルの問題と、その原因となっているトラックドライバーの待遇は知っておくべきでしょう。ドライバーの賃上げや労働環境の改善は、物流インフラの維持のためにも必要不可欠です。