「国とは何か?」地域や人々によって認識は異なる

――「国境とは何なのか」。今、まさに問われる重要な問いのように感じますね。ロシアとウクライナの戦争が起こるまで、私もある意味では平和ボケで、こんなふうに武力で国境が脅かされるなんて想像もしていませんでしたから。

安藤:それは私もまったく同じですし、高校生や大学生たちも驚きをもって今回の出来事を受け止めています。

 地図の上ではロシアとウクライナという国があって、国境が線で引かれているのですが、国境というのは、そんなに確実なものではないのかもしれない。そんなことを思わされますよね。

 日本は島国なので国境は海になっています。日本でも他国との領土問題は常に起こっていますが、やはりロシアとウクライナのように陸続きになっている国に住む人々がもっている感覚は、本当の意味ではわからないかもしれません。

 陸続きで他国と接していることによる緊張や怖さ、また一方ではつながりの深さ、そんな環境のなかで暮らす人たちが国境というものをどんなふうに捉えているのか。そういうことをイメージしていくのも、地理という科目の大切な要素だと思います。

 国境とは何なのかを考えることは、すなわち「国とは何なのか」にもつながっていきます。たとえば、遊牧民にとっての国や国境って何だろうと考えていくと、そもそも、ヨーロッパの歴史の中で、確立された現代の国家という概念があるのかないのかもわかりません。

 少なくとも伝統的なスタイルの生活は、国という組織やシステムのなかで営まれてきたわけではありませんから。

ロシアにとってウクライナが重要な理由

安藤:ロシアとウクライナの戦争の現状だけではなく、ロシアがどういう国で、ウクライナがどういう国なのか、そんなところも見なければ、理解できないことが多いと思います。

 ロシアは大国でウクライナは小国というイメージかもしれませんが、旧ソ連の国々のなかで、ウクライナは旧ソ連領域の西端に位置し、国土も大きくて豊かな国です。ロシアではウラル山脈の西側、いわゆる「ヨーロッパロシア」と呼ばれる地域に人口や産業が集まっているのですが、ウクライナはそういう地域の延長上にあります。

 土壌が豊かで平野が広がっていて、世界的な穀倉地帯の一つに数えられ、石炭や天然ガス等のエネルギー資源、鉄鉱石等の鉱物資源も豊富です。また、南は黒海に開かれていますし、西は、旧ソ連崩壊後、次々と非社会主義化しEUやNATOに加盟していった東ヨーロッパ各国に接しています。

 ロシアからすれば、旧ソ連構成国のなかの「稼ぎ頭」みたいなものですし、一方ではヨーロッパとの間をつなぐあるいはさえぎる「かつての盟友」だというわけです。

 ですから、ウクライナとともにその周辺にある国々にも着目しなければなりません。旧ソ連、現在のロシアとそれぞれ関係をもっていた国です。東ヨーロッパという地域全体の特徴をとらえながら、そこに所在する国々が「どんな国なのか」を具体的にイメージしていくと、世界情勢を見る目も変わってくると思うんです。