ロシア・ウクライナ戦争から「国」を考える

世界情勢が激動している今、「世界の国々を網羅的に理解できる」と話題の本が『読むだけで世界地図が頭に入る本』です。ロシアとウクライナの戦争が起こるまで、ウクライナがどこにあって、どんな国なのかを知らなかった人も多いと思います。それだけでなく、東欧諸国がそれぞれどんな国なのかを知らない人も多いはず。ポーランド、ハンガリー、ルーマニアなど国名は知っていても、それ以上のことはあまり……という人も多いのではないでしょうか。今回は『読むだけで世界地図が頭に入る本』の共著者の一人で、高校や大学で地理を教えている安藤清氏にロシア、ウクライナをはじめ、東ヨーロッパの国々をどのように捉えていくのか。そんな話を詳しく聞いてみました。(取材・構成/イイダテツヤ)

ロシア・ウクライナ戦争から「国」を考える安藤清
1957 年生まれ。1981 年東京都立大学大学院理学研究科修士課程修了。千葉県公立高校教員。現在は、大学で非常勤講師。

地理を学ぶ重要性が増している

――ロシア・ウクライナの戦争が起こり、地理の授業にはどのような影響がありましたか。安藤先生はどんなことを考え、地理の授業を行っているのでしょうか。

安藤清(以下、安藤):私は千葉県の高校で地理を教えていました。今は大学で非常勤講師をしています。

 ロシアの軍事侵攻による戦争は地理の授業に大きなインパクトを与えました。最近の授業で、大学生に、世界地図の中でウクライナの位置がわかるかをたずねたところ約6割が「正確に示せる」と答えました。

 日本の大学生にとってこの割合は高いと思いますね。素直に喜べないことですが、ウクライナという国が以前よりかなりよく知られるようになったわけです。

 この戦争をめぐってあらゆる膨大な情報が報道されて、その程度は人それぞれでしょうが、誰もが「世界にはいろんな国があり人々がいるのだ」と思ったのではないでしょうか。

 つまり、やや一般的な話になってしまいますが、世界各地の自分たちとは違う境遇で生活を営み、価値観をもっている人々について知ること。そういう人たちとの関係をつくるために、他者の立場を想像し自分の中に多様な基準を受け入れる力を求めようとすること。地理の授業はそんなことをめざすのだと思います。

 その国ならではの特徴があるからこそ、多様性がはっきりするわけですが、同時に、各国の自然や文化の共通点と相違点、各国間の関係などをまとめると、より大きなスケールの地域も浮かび上がるわけです。

 今回『読むだけで世界地図が頭に入る本』で、私は東ヨーロッパについて書かせていただいたのですが、担当した国々それぞれの特徴とともに、それらの国々が所在する東ヨーロッパというより広い地域の姿を描き出そうとしました。

 また、世界の国々を扱う学校の地理で、今あらためて考えるのが、国境や国とは何なのかということです。もちろん以前から地理学の重要なテーマではあったのですが、ロシアとウクライナの戦争をとおしてあらためて考えますね。