誰にも理解されなかったビジネスに確信を持つ
前田:会社の戦略も、僕自身のブランディングも、「別のやり方」と「自分らしいやり方」が起点になって、そこから「優れたやり方」も包含していくと思います。自分で自分を「優れている」という風には思いません。ただし、別であること、自分らしくあることは、ずっと意識してきたことではあります。そもそもSHOWROOMそのものが「自分らしいやり方」から始まっています。
平尾:たしかに。
前田:小さいころから駅前で弾き語りをして、お客さんが喜んでくれる曲を歌ってその対価としておひねりをいただく。こんなにお客さんが喜んでくれて、自分も嬉しい気持ちになるという、すごいお金の稼ぎ方があるのか、という喜びの原体験からSHOWROOMが始まっているからです。
でも、SHOWROOMの事業を立ち上げた当時は、ギフティング事業には前例がなかったので、よくわからないという反応が多かったです。
平尾:前田さんがSHOWROOMを始めたのが2013年ですもんね。
前田:そもそも「ギフティング」という概念がなかったのです。でも実は、SHOWROOMが始める以前にUstream(米国IBMが買収)もサービスを作って挑戦されていました。それを例に挙げて言われました。
「ネットプレーヤーがすでにやってみたけれど、全然うまくいかなかった。もう検証済みです」
と何度か指摘をいただきました。それでもやりたかったのは、かつての原体験から、ギフティングサービスに関わるクリエイター側のインサイトも、お客さま側のインサイトもよく知っており、それをネット上に置き換えることなので、僕の原体験がアドバンテージになると思っていました。
ギフティングサービスが「別のやり方」だったのは、当時はまだサブスクリプションすらなかった時代だからです。しかも、縮小傾向があったとはいえ、CDやDVDなどのパッケージは儲かるから大事だという意見が圧倒的な時代だったと思います。
平尾:ユーザー課金がそれほど一般化していない時代ですよね。
株式会社じげん代表取締役社長執行役員 CEO
1982年生まれ。2005年慶應義塾大学環境情報学部卒業。東京都中小企業振興公社主催、学生起業家選手権で優秀賞受賞。大学在学中に2社を創業し、1社を経営したまま、2005年リクルート入社。新人として参加した新規事業コンテストNew RINGで複数入賞。インターネットマーケティング局にて、New Value Creationを受賞。
2006年じげんの前身となる企業を設立し、23歳で取締役となる。25歳で代表取締役社長に就任、27歳でMBOを経て独立。2013年30歳で東証マザーズ上場、2018年には35歳で東証一部へ市場変更。創業以来、12期連続で増収増益を達成。2021年3月期の連結売上高は125億円、従業員数は700名を超える。
2011年孫正義後継者選定プログラム:ソフトバンクアカデミア外部1期生に抜擢。2011年より9年連続で「日本テクノロジーFast50」にランキング(国内最多)。2012年より8年連続で日本における「働きがいのある会社」(Great Place to Work Institute Japan)にランキング。2013年「EY Entrepreneur Of the Year 2013 Japan」チャレンジングスピリット部門大賞受賞。2014年AERA「日本を突破する100人」に選出。2018年より2年連続で「Forbes Asia's 200 Best Under A Billion」に選出。
単著として『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』が初の著書。
前田:当時、アプリの申請をした後に、
「これは、何に対する課金なんですか?」という会話をしたのを覚えています。
楽曲に対する課金であれば、ユーザーは曲がダウンロードできます。ゲームに対する課金であれば、武器やアイテムがもらえます。でも、SHOWROOMのギフトは使ったらその場で消えてしまうので、既存の発想では「これは何ですか?」という反応になる。もちろん承認する側としては、明確なデジタル対価がないと承認できないというので、最初のうちは侃々諤々の議論がありましたね。そういう意味でも「別のやり方」だったと思います。
ただ、これが「優れたやり方」かどうかはわかりませんでした。僕はもともとプロダクトをつくる人ではなく、この領域で先行する優れた人をS級だとすると、自分はA級にも満たない。その意味で「優れたやり方」ではなかったと思います。