「苦手な相手」も好きになれる「仲間集め」の強さ

平尾:前田さんのS級の「自分らしさ」は何でしょう?

前田:僕より法務や財務やファイナンスやUX設計やプロジェクト運営が得意な起業家は星の数ほどいると思います。もし自分らしさがあるとしたら、「仲間集め」があると思っています。

平尾:「仲間集め」?

前田:はい。ある起業家の先輩から、あなたらしさはそこだから、仲間集めを武器にして戦ったほうがいいと言われたこともあります。

――「仲間をつくる力が強い」のは、何に起因するのでしょうか?

前田:おそらく、人を好きになるのが得意だからかもしれません。自分から好きになって、その結果気づいたら仲間になっているということが多いです。例えば昔、タクシーに乗ったあとに「ちょっと急いで行きたい」と言ったら、ぶっきらぼうな反応で、無視されたりもしました。

「やばい、このままだと嫌いになっちゃいそう」

とその時思いました(笑)原則、人を好きになると決めているのですが、さすがに好きになれない。どうするか。ふと目をやると、名前が書いてあったんですよ。二郎さん。絶対に次男だ。僕も次男。自分が兄貴と過ごしてきた温かい時間を思い出しながら、二郎さんにも一郎さんのような名前の兄貴がいて、ふたりの温かい時間があることを想像しました。

次郎さんにも生まれた日があって、生まれた日はお父さんと一郎くんが二郎くんの生まれる瞬間をソワソワしながら待合室で待っている。その瞬間、オギャーと生まれた二郎くん。喜ぶお父さんと一郎くん。そんな優しい人たちに誕生を喜ばれた二郎さんが今、僕を運んでくれている。そう思うと、さすがに嫌いになれないんですよ。

平尾:これだな。前田さんのこういうところを見習おう(笑)。

前田:僕は腹立たしいと思っても、「この人が生まれて幸せだと思った人」の気持ちになってみると、優しくなれると思います。ポイントは、「その人のことを愛している人の気持ちになる」ことなんでしょうか。そもそも僕の最初の仕事は証券営業だったので、基本的に苦手なお客さまばかりだったので。

平尾:大変ですよね、電話をかけてもすぐ切られてしまったり。

前田:はい。そういうときは、その人の奥さまや家族を想像するんです。そういう意味では、周辺を含めてその人のことを考える量が多いのかもしれません。

平尾:圧迫面接の対応策などで嫌な人の惨めな姿を想像する方法はよく聞きますが、前田さんは愛のある想像をされていて、別解ですね。

前田:その人のことを好きな誰かを無理やり想像して好きになるのは、ある種の虚構じゃないですか。でも本当は苦手でも、好きな人の役を演じてみると、だんだんとその人のいいところが見えてくる。相手に好きを渡すと、それが何倍にもなって返ってくることもあります。

 そのタクシーの運転手も、降りるときに飴をくれましたから(笑)。別れるときも、感慨深くなりました、だって、もう一生会わないんですよ。そう考えると悲しくなってきて、だからこそ限られた時間を大事に過ごそうという気持ちになります。

平尾:絆を大切にされている起業家ですよね。

前田:それがないと、自分は成果を全く出せていないと思います。足りない部分が多すぎて、そこをいろいろな人に埋めてもらえた、支えられたことで何とかやってこられたので。

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