3月に『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』を出版した株式会社じげん代表取締役社長の平尾丈氏。25歳で社長、30歳でマザーズ上場、35歳で東証一部へ上場し、創業以来12期連続で増収増益を達成した気鋭の起業家だ。
そんな平尾氏と対談するのは、仮想ライブ空間の中で、無料で誰でもライブ配信&視聴ができるライブ配信プラットフォームを運営するSHOWROOM社長の前田裕二氏。両親が不在のなか、小学生のころから駅前に立って弾き語りをしていた原体験からSHOWROOMを起こしたのはあまりにも有名な話だ。
1987年生まれの前田氏は、早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行のUBS証券に入社。ニューヨークに渡り、北米の機関投資家相手に資金運用のアドバイザリー業務を行う。2013年、26歳でSHOWROOMを創業。そのかたわら、2017年に出版した初の著書『人生の勝算』が11万部、翌2018年に刊行した『メモの魔力』が75万部(電子版含む)の大ベストセラーとなる。日本テレビ朝の情報番組「スッキリ」のコメンテーターも務める注目の起業家である。
不確実性が高く、前例や正攻法に頼れない時代。そのなかで圧倒的な別解を体現しているおふたりに「起業家の思考法」について語っていただいた。
連載第3回は、前田氏の著書『メモの魔力』の中心にある「ファクト・抽象・転用」というフレームについて話が転換した。メモをとったファクトから抽象化、転用へと進む概念で前田氏が伝えたかった真意とは。
(写真 株式会社じげん・津田咲 構成 新田匡央)
自分なりのアジェンダを持つことで、メモをとる「眼」が養われる
――4月29日に刊行された『メモで夢を叶える「魔法のドリル」』でも、『メモの魔力』の中心にある「ファクト・抽象・転用」を小学生向けに書かれるということですが、一般のビジネスパーソンが実践していくときの抽象化力、そこから先の転用力についてのコツを教えていただけませんでしょうか。
前田裕二(以下、前田):よくお伝えするのは「抽象化はアジェンダが全て」ということです。たとえば、僕が本を書いている時、「タイトルをどうしよう」というアジェンダを強く持っているとします。世の中にはあらゆる言葉が溢れていますが、常にアジェンダが気になっている状態で世に溢れる言葉一つ一つに触れていくわけです。新幹線に乗っていても「この広告のコピーはなぜこの言葉を選んだのか」「この言葉は刺さるな」というように、アジェンダを持つと世界を切り取って抽象化して転用するモードになっていくものです。
そもそも抽象化が難しいと言っている方は、きっと、アジェンダが少ないか、弱いのだと思います。経営者は抽象化に長けているのは、頭の中が、アジェンダつまり「解くべき問い」だらけだから、なのかもしれません。
平尾丈(以下、平尾):何か経営に活かせるかもしれないという目で見ていますからね。
前田:まさに。本当に解きたいと思える強烈な問いを持っていること。起業家や経営者は、そんな好奇心の源を常に複数個、大量に持っている。大きな問いもあれば、大きな問いに紐づく小さな問いもある。そうしたアジェンダが体中にあるので、その体で世の中を歩くと、何を見ても抽象化したくなるのかなと思います。『メモの魔力』という本でお伝えしているエッセンスは、僕はそんな時にメモをしている、というシンプルなメッセージです。
自分が持っている問い、アジェンダをきちんと言語化し、明確にしておくと、抽象化するエンジンになると思います。まだ社会や経営の世界に入っていない、という方、特に学生の皆さんは、自己分析というアジェンダを持つといいかもしれません。例えば、就活に直面している人は、自分の軸や、自分が解きたいと思える問いを、自己分析を通じて早めに固めていく。マーケティングのお仕事がしたい、というのが早めに決まれば、この世界は一歩歩くだけでマーケティングのヒントで溢れているので、メモしたくてたまらなくなるかなと思います。
――メモだけやろうとしてもなかなかうまくいかないのは、自己分析が足りない、アジェンダが明確になっていないからなんですね。
前田:それも大きいと思います。自己分析ができていなくてもいいので、まずは「must」をたくさん持ったほうがいいかもしれません。
平尾:「will・can・must」ですね。
前田:新卒のころは「きみのmustはこれだよ」と上司に言われるので、そのmustに邁進しなければなりません。自分のアジェンダを持っていなくても、「きみのアジェンダはこれ」と言われるので、自分でアジェンダをつくらなくても、一旦、アジェンダは持てます。
学校もそうですよね。先生に言われるから問題を解くじゃないですか。そんな問いを解いてどうなるんですか、ともし思っても、学校だから、mustだから、解かなければならない。解いている問いが10個あるとしたら、10個全てが、「非自分発」の問い。
一方、起業家になったら、日々解いている問題の中で、どうでもいいと思うことはほとんどありません。それは先ほども言ったように、本当に解きたいアジェンダを解いているからです。つまり、解いているアジェンダの総量のなかの「自分発」比率が上がっていけば、本気でメモに向き合う姿勢が生まれてくるのではないでしょうか。
SHOWROOM株式会社代表取締役社長
1987年東京生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行に入社。11年からニューヨークに移り、北米の機関投資家を対象とするエクイティセールス業務に従事。株式市場において数千億~兆円規模の資金を運用するファンドに対してアドバイザリーを行う。その後、0→1の価値創出を志向して起業を検討。事業立ち上げについて、就職活動時に縁があった株式会社DeNAのファウンダー南場智子氏に相談したことをきっかけに、13年5月、DeNAに入社。同年11月に仮想ライブ空間「SHOWROOM」を立ち上げる。15年8月に会社分割によりSHOWROOM株式会社設立。現在は、SHOWROOM株式会社代表取締役社長として、「SHOWROOM」事業、ならびに2020年10月にローンチしたバーティカルシアターアプリ「smash.」事業を率いる。
2017年6月には初の著書『人生の勝算』を出版し累計11万部超のベストセラー。『メモの魔力』は、発売2日で17万部、現在75万部突破(電子版含む)。2022年4月に『メモで夢を叶える「魔法のドリル」』を出版。