Netflix、Spotify、Adobe……数々の企業を成功に導いた凄腕コンサルタント、ハミルトン・ヘルマー。彼が著した経営戦略の指南書『7 POWERS』シリコンバレーの起業家たちの間で経営の教科書として密かに読み継がれてきた。アメリカで私家版的に刊行されたため、日本ではごく一部のトップビジネスマンにしか知られていなかった同書が、ついに邦訳刊行される。本連載では、その『7 POWERS』の一部を特別に公開していきたい。
今回は、本書の制作に全面協力したNetflixの創業者・現CEOリード・へイスティングスが同書に寄せた「序文」を紹介する連載の最終回。かつて栄華を極めた強大な企業は、なぜ新たな競争環境に対応できず消え去っていくのか? 企業にとって重要事項に取り組む最適のタイミングはいつなのか? へイスティングスは『7 POWERS』は企業が直面するこうしたすべての戦略的課題に対応できると述べる。そして、『7 POWERS』を精読すれば、あなたのビジネスに対する考えは激変し、真に大切な戦略が何かを学べるはずだ、と熱く語るのだ。

Netflixのリード・へイスティングスが戦略論のカリスマであり『7 POWERS』の著者ハミルトン・ヘルマーに捧げた賛辞。Photo: Adobe Stock

7つのパワーは
ビジネスのすべての局面に対応できる

 本書『7POWERS』が何よりの証拠なのだが、ハミルトンの才能は、戦略について再構成したりわかりやすく伝えたりするだけではなく、それらをはるかに超えたものなのである。戦略的構想というからには、幅広く活用できるものであり、組織が直面する「すべての」主要な戦略上の課題に対応するものでなければならない。

 ハミルトンはずっと以前から既存の構想に欠陥があることを認識していた。その問題に対する彼の解決策とは何なのか。それは、極めて斬新な複数の概念的進化を推し進め、それらを一体化することだ。そうした進化のなかでも、私に際立った印象を残した二つの例を『7 POWERS』から取り上げてみよう。

【カウンター・ポジショニング(『7 POWERS』第3章)】
 私は、かつて称賛されていた強大な企業が、新たな競争環境に対応できないという現実をよく目にしてきた。環境に適応できない企業はほとんど例外なく、そして驚くほど急激に市場から駆逐されてしまう。このことを表面的にしか捉えず、理念やリーダーシップの欠如のせいにする人もいる。ハミルトンの見方は違う。彼は「カウンター・ポジショニング」という概念を定義することで、表面的な事象に惑わされることなく、ある状況における、より根源的な真実を見抜くことができた。ハミルトンは、こうした既存企業には理念が欠けているのではなく、実際には経済的に合理的な行動をとっているがゆえに失敗したという理論を確立したのだ。我々が経験したブロックバスターとの戦いも、彼の理論を裏づける事例となっている。

【パワー獲得のタイミング(『7 POWERS』第9章)】
 Netflixでは、今すぐに達成すべき最重要案件を見極めるため、優先順位をつけることを徹底的に意識している。戦略においてもこれは同様である。戦略上差し迫って必要なものは何なのか、と自問するのだ。残念ながら、既存の戦略論では、ほとんど何の指針も示されなかった。それが重要課題であると認識していても、これまでの戦略論のどれもが、体系的でなく信頼性や透明性のあるものでもなかった。

 既存の戦略論が抱える欠陥に対して、ハミルトンがどのように取り組んだのか教えよう。数十年にわたる考察と経験によって、彼は「パワー獲得のタイミング」という概念を発想し、洗練させていった。それにより彼はビジネスにおいて誰もが直面する戦いの一つ一つに、おおよその時間制限を設定したのだ。これにより戦略的思考を飛躍的に有効活用できるようになった。

『7 POWERS』が
あなたのビジネスを劇的に変える

 以上の二つの例にあるような理解を深めることは、戦略が直面する広範囲にわたる課題を把握するうえで重要となる。しかしそれらは私がハミルトンとの交流で得た成果のほんの一部にすぎない。次はあなたの番だ。『7 POWERS』には、彼が数十年間にわたり経営戦略や金融、教育の世界で培ってきた豊富な見識が凝縮されている。

 本書にあるのは、比類なき明晰さと俯瞰的な考察によって抽出された新しい戦略なのである。『7 POWERS』を読めば、あなたのビジネスに対する考え方が変わり、戦略上の重要な課題を、そして当然その解決策も導き出せるようになるだろう。

 海辺でくつろぎながら読むような本ではないかもしれない。また一晩で一気に読み通せるものでもないだろう。しかし私は確信している。本書を精読することで、その労力がいずれ何倍にもなって報われることを。

(本原稿は『7 POWERS』の序文からの抜粋です)