Netflix、Spotify、Adobe……数々の企業を成功に導いた凄腕コンサルタント、ハミルトン・ヘルマー。彼はその著書『7 POWERS』で、優れたビジネスに必須の「7つのパワー」を解き明かした。戦略に対する深い洞察と実践経験に基づく同書は、シリコンバレーの起業家たちの間で経営のバイブルとして密かに読み継がれてきた。
アメリカで私家版的に刊行されたため、日本ではごく一部のトップビジネスマンにしか知られていなかった同書が、ついに邦訳刊行される。本連載では、その『7 POWERS』の一部を特別に公開していきたい。
今回からは、『7 POWERS』で明かされる第1のパワー「規模の経済」について、具体的な内容を紹介する。ヘルマーがNetflixへの投資を始めたのは2003年、当時はまだ創業間もない無名の企業だった。しかし、ヘルマーはNetflixのビジネスは「パワー」を持つ可能性があると確信していた。その読み通り、Netflixは類例のない快進撃を始めるのだが……。

Netflixの将来性を見抜いたハミルトン・ヘルマーPhoto: Adobe Stock

Netflixが
ライバルを打ち倒した「パワー」とは?

 では7パワーズを構築するための旅を始めよう。これより、7種類のパワーを一つずつ明らかにしていきたい。まず第1のパワー「規模の経済」について、Netflixの例を取り上げて解説しよう。

 2003年の春、私はカリフォルニア州ロスガトスを拠点とする小さな会社への投資に踏み切った。それは創業間もないNetflixという会社だった。私の投資先のほとんどは大資本の企業であったが、Netflixへ投資したのは、DVDをネットで注文し郵便で受け取る「DVDs by mail」という事業に注目したからだった。

 ブロックバスター社が実店舗で展開していた従来型のレンタル事業と異なり、Netflixは仲介業者を排することで成功しつつあった。ブロックバスターは市場占有率を激減させるか、収入のほぼ半分を占めていた延滞手数料を撤廃するかという苦渋の選択を迫られていた。ブロックバスターは存続に関わる決断を迫られながら、いつまでもそれを直視しようとしないので、その間にNetflixが顧客を奪うであろうと私は判断したのだ。

 この仮説に基づく判断はブロックバスターのその後の行動、および最終的に破綻したことによって正しかったと裏づけられた。

 私が定義する戦略とは「重点市場における継続的なパワー獲得への道」という高いハードルを越えなければならない。Netflixによる「DVDs by mail」はそれに成功し、Netflixの持つそうしたパワーがブロックバスターに対する勝利を決定づけたのだった。

 しかし、この郵便を利用した事業は、長期的にはいずれ限界が訪れる運命にあった。なぜなら、DVDという形ある商品を扱うこの事業は、いずれデジタル・ストリーミング配信に取って代わられる運命にあったからだ。

 それがいつになるかは不確実ではあったが、ムーアの法則と、インターネットの通信速度や品質の急激な進歩を考え合わせると、この結末は避けられない情勢だった。そして、Netflixもそれを見通していた。彼らが社名をWarehouse-Flix(倉庫の映画館)ではなくNetflix(ネットの映画館)にしたことは理にかなっていたのだ。

(次回に続く)
(本原稿は『7 POWERS』からの抜粋です)