金融DX大戦#15Photo by Takeshi Shigeishi

山口フィナンシャルグループの最高経営責任者だった吉村猛氏が解任された昨年のクーデター事件。その引き金となったのは、吉村氏が進めたデジタルバンクの設立構想だった――。デジタルトランスフォーメーション(DX)をきっかけに抗争が起きかねない地方銀行は、他にも指摘されている。特集『金融DX大戦』(全22回)の#15で、その詳細を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

失脚した山口FG元会長が構想した
「個人金融専門銀行」の全容とは?

「それでは資料に基づきましてご説明させていただきます――」

 2021年5月28日、山口県下関市の山口フィナンシャルグループ(FG)本社で開かれた臨時取締役会。そう切り出したのは当時の取締役会長グループCEO(最高経営責任者)、吉村猛氏だった。

 神妙な面持ちで居並ぶ社外取締役に資料を配布し、吉村氏が説明を始めたのは、この日の決議事項の一つである「新銀行設立にかかる立案プロジェクト開始の件」についてだ。吉村氏が続けて口を開く。

「リテール金融の収益化を目指し、全国区の個人金融専門銀行を設立する」

 後に明らかになるように、この日の取締役会から約1カ月後に開かれた株主総会の直後、吉村氏は臨時取締役会で会長グループCEOの職を解任される。

 さらに取締役会は同年11月、吉村氏の新銀行構想について「当社のビジネスモデルに整合しない」として検討中止を決定。事実上の“クーデター”で失脚した吉村氏は、失意のうちに山口FGを去ることになった。

 わずか1年足らずの間に起きた、最高権力者の暗転。吉村氏が銀行マン人生を終わらせることになった全てのきっかけが、この新銀行設立構想にあったといっても過言ではない。

 いったいその新銀行とは、どのようなものだったのか。実は一部の社外取締役からは、構想に前向きな意見も出ていたことが判明した。ある一点を除いて、ではあるが――。