社外取「欺瞞のバブル」9400人の全序列#10Photo by Toshiaki Usami, Diamond, JIJI

地銀の雄ともいわれる山口フィナンシャルグループは昨年、トップの解任騒動に揺れた。前会長の電撃解任の引き金となったのは、新銀行構想を巡る前会長と社外取締役らとの深刻な分断だった。およそ3週間にわたり公開予定の特集『社外取「欺瞞のバブル」9400人の全序列』の#10では、解任直前の臨時取締役会で約5時間にわたって繰り広げられた、前会長と大物社外取の間の大激論の一部始終を明かす。(ダイヤモンド編集部編集委員 名古屋和希)

社外取の修正動議でトップ解任
「山口の乱」の混迷、半年続く

「代表取締役会長に私、吉村猛を就任させていただきたいが、いかがでしょう。ご承認いただける方は挙手をお願いします。……。反対ということでよろしいでしょうか。分かりました」

 2021年6月25日、山口フィナンシャルグループ(FG)の株主総会後に開かれた臨時取締役会。冒頭、議長役だった前会長グループCEO(最高経営責任者)の吉村猛氏は、自らを会長に選任する提案を居並ぶ取締役らに諮ったものの、否決された。

「全員賛成です」。吉村氏がそう告げ、代わりに単独で代表取締役の座に就くことになったのが、現社長の椋梨敬介氏である。吉村氏は議長として、自身の解任を自ら告げる役回りとなった。

 直前の定時株主総会で、吉村氏の取締役再任が承認されたばかりだった。株主総会後の臨時取締役会では、総会決議を追認するのが通例だ。総会直後に、トップが解任されるという事態は異例中の異例である。

 吉村氏はダイヤモンド編集部のインタビューに対し、「用意周到なクーデターを仕掛けられた」と述べた(『【独自】山口FGの吉村前CEOが衝撃告発「用意周到なクーデターを仕掛けられた」』参照)。

 吉村氏がそう主張したのには理由がある。実は、吉村氏が会長と社長のセットの人事案を上程した直後、ある人物がこんな発言をした。「お二人だけなので、一括審議ではなく、お一人ずつやってはどうか」。

 発言したのは、三菱重工業特別顧問で山口FGの取締役監査等委員を務める佃和夫氏だ。この修正動議で、吉村氏と椋梨氏の人事案は別々に諮られ、吉村氏だけ否決されることになった(詳しくは『極秘メール入手!山口FGが虚偽説明の疑い、株主無視で前CEO解任「クーデター」の全貌【スクープ完全版】』参照)。

 会長を解任された吉村氏は取締役の辞任を拒否。山口FG側は吉村氏を取締役から外すために昨年12月下旬に臨時株主総会の開催を決定。徹底抗戦の構えを見せた吉村氏だったが、総会前日に辞任し、半年間続いた「山口の乱」は終息した。

 吉村氏の強力なリーダーシップの下で改革を進めてきた山口FGは地銀業界では模範とされ、社外取締役が過半を占めるガバナンス体制も先進的といわれてきた。だが、そんな「地銀の優等生」が起こしたのが前代未聞の解任劇だったのだ。

 混迷を招く原因となったのが、吉村氏が水面下で進めてきた新銀行設立構想である。この“極秘”計画こそが吉村氏と、ほかの執行部メンバーのみならず社外取との間に深刻な分断を生むことになった。

 実は、解任直前の21年5月28日に開かれた臨時取締役会に、吉村氏が新銀行プロジェクトを開始する旨の議案が上程された。

 そのプロジェクトを巡って、推進派の吉村氏と、佃氏をはじめ、東京大学大学院教授、弁護士ら社外取の間で大論戦が交わされたのだ。

 議論は、新銀行構想そのものにとどまらず、吉村氏と共にプロジェクトを立案したコンサルタントの中途採用や、その高額な報酬についても及んだ。

 吉村氏と激しく応酬したのは、佃氏ら社外取6人。次ページからは、山口FG関係者への取材などを基に、吉村氏解任の引き金になったとされる約5時間にわたる大激論の一部始終を紹介する。