しかし、中国や台湾の側にも言い分があります。すでに15~16世紀に、自国人によってこれらの島が発見された記録があるとして、日本側の主張する「先占の法理」(いずれの国にも属していない土地に関しては、先に支配を及ぼした国の領土とする考え方)は成り立たないと主張しているのです。

 領土問題となると、政府も国民も、とてもナーバスになります。

 しかしそもそも、いったいわたしたちのどんな価値判断が、われわれをナーバスにするのでしょうか?

 動物は本能的に、「縄張り」に対して非常に敏感です。犬や猫、猿などの動物は、縄張りのなかのエサをとることで生存できているわけで、外敵が入ってくれば全力で威嚇し排除しようとします。生活の場を確保するために、外敵の侵入を許さないのです。人間も動物ですから、これは同じです。

 ところが、犬や猫が「目に見える範囲の縄張り」だけを守ろうとするのに対して、人間は、行ったことも見たこともない土地までも守ろうとします。日本人のほとんどは、尖閣諸島に行ったことがないはずです。なのに、そこを守ろうとするのです。

 行ったことも見たこともない尖閣諸島という「縄張り」を守ろうとするのは、子どものころからわたしたちが、「自分は日本人である」と教えられてきたためです。そういう価値判断の基準を持っているということです。だから日本の領海が侵犯されれば、許せないという気持ちになるのです。

ナショナリズムとは、現代における一種の宗教である

「自分は日本人である」というような国民としての意識、国を守ろうという意識、こうした意識のことを「ナショナリズム」と言います。

 領土問題のニュースを見て価値判断するとき、われわれにはナショナリズムの意識が、自然と働いているのです。

 気をつけなければならないのは、この意識が本能的なものではなく、教育などによってあとから植え付けられた意識である、ということです。