売れる営業パーソンは
理想に到達するまでの物語を提案している

――なぜ、そんなに「営業の形」が変わってきたのでしょう。

麻野:インターネットの普及によって、顧客も簡単に情報を得られるようになりました。つまり、商品の説明だけなら、営業は不要になっているんです。

それと、今は「どこの商品も似てきている」と言えます。20年、30年前なら、「BtoB」向けのサービスの場合、各社がどんなサービスを提供しているかわからなかったんです。でも、今はすべてウェブに載っていますから、当然、競合他社も商品やサービスのすべてを知っている。そのため、付加価値がなければ、A社から買ってもB社から買っても同じ。プロダクト営業では差別化できないのは明白ですよね。

――たしかに、そうですね。

麻野:薬をイメージしてもらうとわかりやすいんですが、薬は基本、どこで買っても同じです。だから、「この薬にはこんな機能があります」といくら説明しても、そこにあまり意味はありません。そこで大事になってくるのが「いいドクター」の存在です。自分の症状をしっかり把握してくれて、それに見合った薬を出してくれるとしたら、そのドクターから渡される薬を飲みたいですよね。これが、ソリューション営業が必要になってきている流れです。

でも、それだけでは十分とは言えなくなっている。今度はスポーツジムのパーソナルトレーナーをイメージしてみてください。パーソナルトレーナーって「どんな体型になりたいか」という話をしてくれたり、「こんな理想のプロポーションになりたくないですか」なんて話をしてくれて、そういった理想に近づいていくストーリーを提案してくれますよね。

ただ、器具の機能を説明してくれたり、器具の使い方を教えてくれたりするだけでなく、「理想の体型になるまでのストーリー」を考えて、提案してくれる。そういう付加価値が営業担当には求められるようになってきているんです。

――めちゃくちゃわかりやすいです。

麻野:『NEW SALES』では、まさに「NEW SALES」(新しい営業)と「OLD SALES」(古い営業)という表現をして、その違いを語っていますが、営業担当の人たちはまず「営業の形」とか「営業の役割」が変わっていることを理解する必要があると思います。

かつては、商品のことをちゃんと理解して、上手に説明できれば売れていた時代もありましたが、時代は大きく変化しています。

アメリカの決済サービス大手ペイパルの創業者ピーター・ティールは「差別化されていないプロダクトでも、営業と販売が優れていれば独占を築くことはできる。逆のケースはない」と言い切っています。それだけ、営業力がビジネスの成果を左右する大きな要素であると言っているわけです。

それほど重要な「営業」というものが、今どんなフェーズにあって、どんな役割を求められ、何をすることが必要なのか。『NEW SALES』では、何よりもまずそういったことを、誰にでもわかるように書いたつもりです。

■著者紹介
麻野耕司(あさの・こうじ)
株式会社ナレッジワークCEO

1979年兵庫県生まれ。2003年慶應義塾大学法学卒業。同年、株式会社リンクアンドモチベーション入社。2010年、中小ベンチャー企業向け組織人事コンサルティングの執行役員に最年少(当時)で着任。気鋭のコンサルタントとして、成長企業の組織変革を手掛ける。2016年、国内初の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」を立ち上げ、多数の大手企業に導入。国内HRTechの牽引役となる。2018年同社取締役に就任。2020年、「できる喜びが巡る日々を届ける」をミッションに、株式会社ナレッジワークを創業。2022年、「みんなが売れる営業になる」を実現するセールスイネーブルメントクラウド「ナレッジワーク」をリリース。営業ナレッジの展開や営業ラーニングの提供を通じた営業生産性の向上や営業力強化を支援する。主な著書は『THE TEAM』(幻冬舎)、『すべての組織は変えられる』(PHP研究所)。
なぜ今、これまでの営業スタイルが通用しないのか?<br />新時代の営業「ストーリー営業」が必要なワケ