「現場」を見に行くことでしか、
「本当に大切なこと」は学べない
2009年3月。「鼻の手術を極める」と決めた大村さんは、手術手技の研鑽を積むために日本に帰国。東京慈恵会医科大学の耳鼻咽喉科に入局した。開設から130年という、日本で最も歴史がある耳鼻咽喉科である。
それからはひたすら手術をする毎日だった。「誰よりも手術をして、誰よりも早く手技を身に付けたい」という思いに駆り立てられていた。
「鼻の手術で日本一になると決めていたんです。目標がはっきりしていたので、あとはそこに向かって一直線に進むだけでした」
病院に泊まり込んで、緊急手術があれば率先して手を挙げる。上級医に手技を教えてもらうためにあらゆることで工夫をした。
「はじめのうちは一人では手術をやらせてもらえないので、いかに上級医の時間を作るかを考えました。たとえば緊急手術の予定が入れば、手術室の手配から患者さんの入院手続きまで、上級医に代わって全部やる。その空いた時間で教えてもらうんです。だから、断トツで手術をやらせてもらっていました」
上級医に「緊急のオペが入った」と言われれば、「すぐ行きます!」と返事をして、すべての準備を整える。手間のかかる仕事を率先して引き受けることで、教えてもらう機会を増やしていった。さらに、外科医としてのスキルを磨くために、手術が上手だと評判の医師がいれば、国内でも国外でも出かけて行って見学をした。
「国際学会にも参加しましたし、1回200~400ドルもするような講義をいくつも受けました。耳鼻科で世界トップクラスの医師たちの手術を見るために、ブラジルやウィーン、アメリカ、韓国にも行きました。医師になってからもらった給料は、その時点でほぼ底をつきましたけど‥‥(笑)。でも、そこまでやってよかったと思っています」
なぜ、わざわざ手術の現場を見るために、世界中を飛び回ったのか?
それは、大村さんが手術の“ライブ感”を大事にしていたからだ。
最近では、学会やYouTubeでも一流のスキルを持った医師の手術動画を見ることはできる。しかし、それはあくまで編集されたもの。手術の準備から終わりまでノーカットで医師の立ち居振る舞いを見たい。何かあったときにはどのように対応するのか、一挙手一投足に医師の力量が出る。それを知るには、実際に手術室に入り、間近で見るしかない。
現場でしか得られない情報があるのだ。
だからこそ、現場に行くことが大事なのだと大村さんはいう。