プレゼンする男性写真はイメージです Photo:PIXTA

管理職が最も強化すべきは
「プレゼンを聞いて評価する能力」

 プレゼン研修ではいろいろなことを習う。構成、シートの作り方、声の出し方、間の取り方。もちろん上手なほうがいいに決まっているから、練習に価値はある。しかし、ここにひとつ大きな疑問が生まれる。そもそも聞くほうの能力が高いのであれば、プレゼンそのものは本来それほどうまくなくても問題はないはずではないか。

 プレゼンを聞いて評価する能力、これこそ、今、管理職が強化すべき最も重要な能力である。せっかくの力作であっても、それがしっかり理解され、成果につながらなければ意味がない。にもかかわらず、世の中には、不思議とプレゼンを評価する能力を向上させる研修はない。企業幹部であっても、ごく限定した聞き方――自分の狭い興味の範囲で、「使える、使えない」と一刀両断してはばからないような――しかできず、提案の持つポテンシャルをも含めた評価ができない人がいくらでもいる。

 内容そのものをどう適切に評価するかについては、ケース・バイ・ケースになるから、ここでは語れないし述べない。ただし、「どんな内容をどのくらいの範囲(スコープ)で評価するか」の空間的・時間的な視点から、優れた人とそうでない人の違いを語ることはできる(なお、以下では社外からの提案ではなく、社内での提案をイメージして話を進める)。

プレゼンを評価する能力※左側は提案の内容、右側は評価する際に参照する事柄 拡大画像表示

1)「提案の内容」⇔「今の時点のニーズ」

 聞くほうは、自分の求めている内容がその提案でしっかりカバーされているかどうかのみを聞く。それで、こういう視点が欠けているとか、この要素が満たされないと使えないとか、コメントを言う。これは普通のことであり、誰でもできる。

 ただ、この場合にあっても、これがダメ、あれがダメというだけでなく、このように改善すればその提案は採用可能になる、など、改善の方向を指し示すことができれば、建設的な意見となり、提案する側にとっても(たとえそのときは採用されなくても)有意義な時間となる。こんなふうに改善の方向性を的確に示してくれる人はどのくらいいるだろうか。それなりの立場の人であれば、教育効果を考えてあえて言わない場合はともかく、適切に改善の方向性を指し示すことができるくらいの能力は最低でも持っていなければならない(残念なことに、それすらできない人がなんと多く管理職以上の地位に居座っていることだろう……)。

2)「提案の本質」⇔「将来のニーズ」

 聞き手のレベルが高ければ、提案された内容が今の時点のニーズに合致していなかったとしても、むしろ自分がニーズと思い込んでいたものよりも、提案の内容のほうが、より本質的で重要視すべきものであるという可能性を考える柔軟性を持っているものだ。たとえば、「あなたたちの提案の真の狙いは、うちの業態を、製品売りからサービス価値の提供へ変える端緒を開こうとしているのですね」「BtoBしかやってこなかったわが社にとって、たとえ額は小さくともBtoCのビジネスを初めて形にする挑戦なのですね」といった具合に、提案そのものを多様な観点から見て、一段上の次元から問い直すのである。

 このような聞き方をしてくれる幹部は、いろんな意味で素晴らしい示唆を与えてくれる。優秀な聞き手に提案できるのは大変幸せなことである。ただ、立派な会社の幹部であったとしても、こんな聞き手の出現確率は1割を超えることはないだろう。ちなみに、提案されたものに対して、自分たちが既にやってきたことの至らなさを指摘されたかのように感じていらっとするような幹部はまだましである。提案の内容が本質を突いていることを少なくともわかってはいるからだ。