3)「提案の内容」⇔「将来のニーズ」

 今のニーズに完全にマッチはしていないものの、今後の状況次第では、その提案は十分に価値のあるものになる場合がある、ということがある。この際、聞き手は、時間軸を将来にまで引き延ばして考えている。法制度や経済条件の変化、社会的な流行や技術の発展などを思考の枠に入れて、将来のニーズや許容範囲の変化を計算に入れて考える。「今は採用できないが為替が円高に反転したら……」「今は難しいがデータがもっと共有されるようになれば……」といった形で、時間軸を引き延ばし、提案の持つポテンシャルまで含めて評価しようとする。

 これまた、会社で重要なポジションにある人であれば、そもそも将来に向けての意思決定をするのが仕事なのだから、時間軸を自在に引き延ばして考える技術は必ず習得していなければならないし、その際、どの時間軸に立って考えているかを明確にした上で適切にフィードバックしていく表現技術も磨いておかなくてはならない。しかしこれらの技術の習得もきわめておぼつかないという幹部が実は大半である。

4)「提案の内容」⇔「他部署のニーズ」

 提案の内容が、自分の管轄よりも、別の部署(場合によっては関係会社や提携先の別会社)にとってフィットする内容であると認識し、そちらの部署に対して、「提案を受けたのだが、○○が優れていて、それが君の部署にフィットするのではないか」というコメント付きで、しっかりその部署につないでくれる人がいる。こんなふうに対応できるためには、関係する部署が何に困っているか、どんなニーズを持っているかについて、関心を持って把握し、かつプレゼンの内容に接続する知識と能力を持っていなければならない。特に、上記のように、なぜ別の部署にフィットするか、しっかりと理由を認識し、その上で相手に紹介してくれると、提案に新たな命が吹き込まれる。このような対応をしてくれる人が多ければ、会社の生産性は大きく上昇する。

「自分の部署の役に立たないのだし、忙しい中わざわざ他部署につなぐ労を執るメリットはあるのか、仮に他部署の役に立ったところで、自分の部署に見返りはないではないか」などと考えるのは全くもって狭い了見だ。昔から「情けは人のためならず」と言う。目先の利益と関係なく、人を紹介したり、情報を回したりしていると、ネットワークが広がるし、そうしたちょっとした骨折りは回り回って、自分が必要な情報を欲しいときに、誰かがそれを授けてくれたりするという形で還ってくる。必ず好循環を生むものだからだ。

 とはいえ、他部署のニーズにマッチするのではないかという人も、実際には、「理解が浅く、ただ思いつきの口からでまかせを言っている場合」が圧倒的に多い。場合によっては、提案の判断のお鉢を他人に回すためにそんなことを言っていることもある。そのような人は、なぜ別の部署が合うのかその理由を尋ねると、「なんか興味を持っているといったようなことを聞いたことがある」程度の返答しかできない。しかもその程度の認識なので、その人自ら仲介の労を執ってくれるわけではない。一応可能性はゼロではないのだから、ダメ元でその部署に自分で当たるくらいはしたほうが良いが、期待薄と考えておいたほうが良い。

5)「提案の内容そのものではなく提案の中にある素材」⇔「今の時点のニーズ」

 提案そのものは使えなくても、提案の中にある技術やツール、企業間ネットワーク、チームなど、提案の中にある要素を素材として判断し、その素材を使わせてくれないか、というコメントをしてくれる人もいる。提案側から見ると、全体を評価してくれたわけではないし、自分の思い描いていた事業につながらないため、不快に感じるかもしれないが、提案を分解して、新たな可能性を示してくれたことで、ブレークスルーにつながることもある。少なくともこのように提案を複眼的に見る能力がある人が評価者の中にいることは、とても有り難いことである。

 たとえば、深層学習を駆使するチームがあるのなら、その人たちに「その能力を生かしたより面白そうな案件に関わってもらいたいのだがどうだろうか」といった具合である。