「なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?」SNSに潜むウソ拡散のメカニズムを、世界規模のリサーチと科学的研究によって解き明かした全米話題の1冊『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』がついに日本に上陸した。ジョナ・バーガー(ペンシルベニア大学ウォートン校教授)「スパイ小説のようでもあり、サイエンス・スリラーのようでもある」、マリア・レッサ(ニュースサイト「ラップラー」共同創業者、2021年ノーベル平和賞受賞)「ソーシャル・メディアの背後にある経済原理、テクノロジー、行動心理が見事に解き明かされるので、読んでいて息を呑む思いがする」と絶賛された本書から一部を抜粋して紹介する。

「生き残るSNS、ユーザー離れが加速するSNS」決定的な差Photo: Adobe Stock

「ネットワーク効果」の負の側面

 ネットワーク効果は諸刃の剣である。好循環を生むことも多いが、反対に悪循環を生んでしまうこともある。

 好循環によって、10年のあいだにユーザー数20億人という巨大なソーシャル・メディア・プラットフォームができることもあるが、いったん悪循環が起きると、同じくらいの速度でプラットフォームが収縮してしまうこともある。

 ネットワーク効果があると、市場は、経済学者の言葉でいう「ティッピー」なものになる。これは、特定のプラットフォームが市場を独占する状態に陥りやすくなるということだ。(関連記事:「一人勝ち・勝者総取り」が発生する経済学的なしくみ──4種類の「ネットワーク効果」を解説

 しかし、いったん悪循環が始まると、市場を独占したプラットフォームがその地位から簡単に滑り落ちる。

「ネットワーク効果の悪循環」が始まる瞬間

 たとえば、フェイスブックを利用するたびに有益な情報が得られ、他のユーザーと良い関わりを持つことができ、ビジネス・チャンスにつながるのだとしたら、このままフェイスブックのユーザーで居続けようと思う人は多いはずだ。

 しかし、フェイスブックを利用しても、そのたびに大量のフェイク・ニュースやフィッシングのメッセージが送られてくる、選挙の操作活動がさかんに行なわれている、2019年3月にニュージーランドのクライストチャーチで起きた銃乱射事件のような、悲惨な事件のライブストリーミング動画が頻繁に流される、という状態だったらどうか。

 そうなると、ソーシャル・メディア・ネットワークの持つ価値は急速に低下するだろう。多くの人が、ソーシャル・メディア資源としてのフェイスブックを信用しなくなってしまう。

 多くの人々を引きつける力の源になった質量が、今度はまったく同じ力で人々を遠ざけるのだ。

 フェイスブックやツイッターなどは、大きなネットワーク効果を持っているだけに、それがこれまでと反対方向の力を生めば、大量のユーザーが一斉に離脱するかもしれない。

 そんなことはあり得ないと思う人は、マイスペースの創始者、トム・アンダーソンとクリス・デウォルフに尋ねてみればいい。マイスペースが衰退したのは、フェイスブックとの競争に敗れたせいもあるが、ユーザーに良くないイメージを持たれてしまったせいもある。

フェイスブックが10年前にインスタグラムを買収した理由

 フェイスブックは、インスタグラムを10億ドルで、ワッツアップを190億ドルで買収したが、これはいずれ取って代わられることを恐れたためだ。自らがかつてマイスペースにしたことをされる可能性は大いにあった。

 このように、競争上の脅威になるおそれのある新興のソーシャル・メディアを買収することで、フェイスブックは自分たちのネットワーク効果と支配的地位を守っているのだ。

 ファクシミリのことを考えてみればよくわかる。ファクシミリという機械が普及しはじめると、利用者が増えるほどにその価値が急速に高まっていった。しかし、インターネットやデジタル文書が現れると、ファクシミリは普及したのと同じくらいの速度であっという間に消えてしまった。

 かつては普及に貢献した力が、新たなテクノロジーが現れたことで逆方向にはたらきはじめ、今度はその同じ力によって急速に衰退するのだ。

 囲い込み、差別化が重要なのはその理由からである。

 ソーシャル・メディアがユーザーを囲い込んでいれば、つまり、データの移行や、他ネットワークのユーザーと直接やりとりできないようになっていれば、ユーザーが離れることは防げるだろう。

 しかし、競合する他ネットワークが差別化により、ユーザーにとって独自の価値を持つようになることもある。その場合、ユーザーは両方のネットワークのサービスを同時に使える「マルチホーム」の状態を強く望むようになるだろう。

ユーザーが「時代遅れだ」という印象を持ってしまうと……

 ソーシャル・メディアが、革新的なテクノロジーで消費者の心をつかみ、自らの地位を高める戦略を採ったとしてもまったく不思議ではない。消費者は常に前を向いているからだ。

 時代遅れで、これから衰退していくだろうと感じるプラットフォームに囲い込まれるのを望む消費者はいない。できれば、これから発展していくであろうネットワーク、数年先に最高の人気を得て、最高の価値を持つことになりそうなネットワークに参加したいと思う。

 これはつまり、消費者(ユーザー)にどういう印象を持たれるかが(ほぼ)すべてであるということだ。

 フェイスブックは時代、状況に合わせて適切にビジネスモデルを調整できる、プラットフォームのもたらす悪影響を排除できる(少なくとも悪影響を大きく減らすことができる)という印象が広まれば、今後もユーザーは離れずにいるだろう。

 だが、フェイスブックのやり方は信用できないと思う人が大勢を占めるようになれば、一気にユーザーが離れる可能性がある。特に、代わりになるようなソーシャル・メディア・プラットフォームが台頭してくればなおさら、その可能性は高まるだろう。

(本記事は『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』を抜粋、編集して掲載しています。)