ドイツ経済モデル破綻がギリシャ人の同情を誘う訳「ドイツモデルは他のどの国もそれを採用しない場合にのみ成功する」 Photo:Reuters/AFLO

『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者ヤニス・バルファキス元ギリシャ財務相による連載。今回のテーマは、ドイツ経済モデルの終焉です。エリートたちが30年間にわたって繰り返してきた「ビッグライ(大嘘)」とは?

 目が覚めたら自国のビジネスモデルが破綻していた、というのは決して心安らかなことではない。否定しようのないことではあっても、受け入れ難い。すなわち、自国の政治指導者は何十年にもわたって、私たちがコツコツと働いて実現してきた生活水準が崩れることはない、と保証してきたが、それは彼ら自身が欺かれていたか、彼らが私たちをだましていたのだ。

 近い将来は、こちらを押しつぶそうと決意している外国人の慈悲にすがるしかない。あれほど信頼していた欧州連合(EU)は、ずっと隠蔽(いんぺい)工作に従事していた。今こそ仲間であるEU加盟国に支援を求めているというのに、彼らはこちらを、とっくの昔に天罰を受けるべきだった悪漢だと考えている。自国の、そして世界各国の経済エリートたちは、この国を確実に泥沼に落としておくための斬新な方法を模索している最中である。そして、私たちは巨大で苦痛に満ちた変化に耐えなければならないのに、その見返りは現状維持にすぎないのだ。

 ギリシャ人はこの感覚を知っている。2010年初頭に、骨身に染みてそれを経験したからだ。今日、侮蔑と反感、さらには嘲笑の壁に直面しているのはドイツ人である。皮肉に映るかもしれないが、欧州の中で、ギリシャ人ほどよく理解している者はいない――ドイツ人はもっと高く評価されるべきである。ドイツ人の今の窮状は、私たちの共同体としての欧州の失敗が生み出したものである。そして、他国の不幸を喜ぶことで利益を得るものなど誰もいない。長年苦しんできたギリシャ、イタリア南部、スペイン、ポルトガル(かつてPIGSと呼ばれた)の人々であれば、なおさらである。

 ドイツにとって状況が一気に不利になってしまったのは、その経済モデルが、低く抑えられた賃金、低コストのロシア産天然ガス、中程度の技術水準である機械工学部門(特に内燃機関を備えた自動車の製造)における優位性に依存していたからだ。これは、4つのフェーズに区分される第2次世界大戦後の時期において、大規模な貿易黒字をもたらした。

 4つのフェーズとは、固定為替レートと欧州・アジア・南北アメリカへの市場アクセスを実現した米国主導のブレトンウッズ体制、続いてブレトンウッズ体制崩壊後、単一欧州市場がドイツからの輸出に高い利潤を保証した時期、さらにはユーロ導入後、ベンダーファイナンスによってドイツから欧州の周辺国に向けて製品・資本双方が流れ込んでいった時期、そして最後に、ユーロ危機が南欧におけるドイツ製品への需要を減らしたのちに、中間財・完成品に対する中国からの需要がその穴埋めをした時期、である。