インフレ放置か連鎖破綻か、西側が明け暮れたパワーゲーム失敗の代償インフレ加速で日米欧が迫られる「不可能な選択」とは? Photo:Reuters/AFLO

『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者ヤニス・バルファキス元ギリシャ財務相による連載。今回のテーマは、インフレの犯人です。ロシアのウクライナ侵攻や中国主要都市のロックダウンに伴うサプライチェーン混乱が大きな要因であるとしても、主犯は別にいると指摘します。

 物価高騰の犯人探しが続いている。急激なインフレをもたらしたのは、中央銀行があまりにも長期にわたり大量のマネーを供給し続けたせいなのか。それとも中国のせいだろうか。中国は実際の製造工程のほとんどを担っていたが、パンデミックに伴うロックダウンにより、グローバルなサプライチェーンが途絶してしまった。あるいはロシアが原因か。ウクライナ侵攻により、グローバル市場への天然ガス、石油、穀物、肥料の供給が大きく損なわれた。いや、パンデミック以前の緊縮財政から歯止めのない放漫財政へと密かな政策変更があったのだろうか。

 テストと違って、答えは一つに定まらない。つまり上記の全てが正解であり、どれも正解ではない。

 重大な経済危機に際しては、複数の説明が出てきて、どれも正しいが同時にどれも的外れということがよく起きる。2008年の米国における株価暴落が世界的な「グレートリセッション」を引き起こしたときも、さまざまな説明が提示された。資本主義の中で産業資本家よりも上位となった金融資本家によるいわゆる「規制の罠」、ハイリスクなファイナンスを好む文化的な志向、新たなパラダイムと巨大なバブルを見分けられなかった政治家とエコノミストの失敗、そしてその他にも数々の理論が聞かれた。どれも妥当ではあったが、問題の本質を突いたものはなかった。

 今日の状況でも同じだ。2008年に各国中央銀行がバランスシートを大規模に拡大して以来、ずっと高インフレを予言し続けてきたマネタリストたちは、「ほら、言ったとおりだ」と言うだろう。資本主義の死期が迫っていると一貫して「予言」してきた(筆者のような)左派が、まさに2008年に同じような喜びを感じたように。

 止まった時計でも日に二度は正しい時刻を示す。マネーを注入すれば実体経済へとトリクルダウンするという間違った期待を抱いて、金融機関に巨額の当座貸越を与えることで、各国中央銀行は、株式や不動産、暗号資産のブームに見られるような巨大な資産価格インフレを引き起こした。

 だがマネタリストの理論で説明できないこともある。なぜ主要国の中央銀行は2009年から2020年にかけて、消費者物価のインフレ率を目標とする2%に上昇させるどころか、実体経済の内部で循環するマネーの量を増やすことすらできなかったのか。インフレを招いた原因は、何か他にあるはずだ。