「いや、触らないでそのまま、そっとしておいて」
オペ失敗しても知らんぷりの“リピーター医師”

B チェックしているときに、あ、これ不適合冠(かぶせ物や詰め物の縁と歯肉の間に、隙間やオーバーラップがある状態。二次的なう歯や歯周病のリスクになる)だわ、昔のかな?と思って記録を見たら、つい最近の治療だったり(笑)。これを見つけると、非常につらい。

 仕方がないから、ここは重点的にフロスかけてくださいねとか、歯間ブラシをちゃんと使っていきましょうとか、ごまかすしかない。

C 特に保険診療はチェアタイム(治療時間、歯科用の椅子を患者が占有している時間)の単価が激安だから手を抜いてしまうのかな。保険診療で1人1時間もかけていたら確実に赤字です。せいぜい1人15分くらいが御の字ですけど、それで精緻な治療ができるわけがない。院長が経営者を兼ねていると、その辺が治療に影響してしまう。私はそこが耐えられなかった。

A 雇われている歯科医師も、同じようなものじゃない?雇用契約にもよるけど、多くは基本給にプラス、担当した保険診療分から何パーセント、自費診療分から何パーセントという出来高制だから、給与に反映される分、自費診療をどんどん勧める。

D 給与に反映されるから、営業トークのスキルだけが上がっていくんですよ。明らかに保険診療以上の治療は望んでいないのに、めちゃくちゃ長い説明を聞かされている患者さんが気の毒になる。それ以前に大本の根管治療がいいかげんでは、高い自費のクラウンをかぶせても持たないのになあって思いますよね。奥歯のセラミックスも見た目はきれいですが、咬合が悪ければ割れやすい。

A 良いものを入れて長持ちさせたいとは皆思っていること。だから、患者さんの選ぶ権利を尊重して選択肢を提示するのはよいと思うけれど、明らかに「この歯はもう長くは持たないだろう」という歯にまで高額のインレー(詰め物)やクラウンを勧めるのは違うと思う。

――治療ミスを繰り返す医師を指す「リピーター医師」という言葉がありますが、歯科医でもリピーターはいますか?

A いない、と言いたいけど、います。

B 以前、所属していた医療法人で、上の歯のインプラント埋入時にサイナスリフト(上顎の上に広がる空洞に骨補填材を入れてインプラントを植える土台を作る術式)がいまひとつで、十分な初期固定が得られないケースがありました。

「先生、これクルクル回っていますよ、どうします?」と聞いても「いや、触らないでそのまま、そっとしておいて」って。いやいやいや、絶対これロスト(失敗例)だし、感染リスクだよ!と。結局、半年たっても固定しないまま、その先生は辞めてしまって……。

――結局、どうしたんですか?