子どもと大人の感想が真っ二つに分かれる90万部ベストセラーの秘密

生きものの絶滅確率は99.9%――つまり、ほぼすべての生きものは絶滅する運命にあります。絶滅に至るさまざまな背景を、子どもたちにもわかりやすく面白くまとめた書籍『わけあって絶滅しました。』は、シリーズ累計90万部のベストセラーに。「生きものの絶滅は、理不尽な出来事だけど、それゆえにおかしみがある」「進化って、よくなることではなくて、変わっていくことにすぎない」などを子どもたちが楽しく学べるように、と本書シリーズを企画・編集した金井弓子さん(ダイヤモンド社)は、KTV・フジテレビ系列TV番組「セブンルール」でも取り上げられるなど話題の編集者でもあります。その本づくりの裏側とともに「絶滅」の奥深さについて聞きました。(構成:書籍オンライン編集部)

進化は良いこととは限らない

子どもと大人の感想が真っ二つに分かれる90万部ベストセラーの秘密金井弓子(かない・ゆみこ)
書籍編集者。ダイヤモンド社書籍編集局第一編集部副編集長
大学卒業後に実用書出版社に入社し、営業職を経て書籍編集職に。『ざんねんないきもの事典』など、児童書から女性実用まで幅広い企画を担当。2016年にダイヤモンド社に入社。シリーズ累計販売部数90万部の『わけあって絶滅しました。』のほか、同58万部の『東大教授がおしえる やばい日本史』『東大教授がおしえる さらに!やばい日本史』『東大教授がおしえる やばい世界史』、同35万部の『せつないどうぶつ図鑑』『生まれたときからせつない動物図鑑』などを担当。(写真撮影:和田佳久)

――金井さんは、前職での『ざんねんな生きもの図鑑』『わけあって絶滅しました。』など、児童向けに生きものを紹介するベストセラー本をいろいろ作ってこられました。

 なかでも、この『わけあって絶滅しました。』シリーズで、生きものの「絶滅」をテーマにしたのはなぜですか? なぜ、「生きる」じゃなく、あえて「滅びる」ほうを?

金井弓子(以下、金井):私は動物が好きなんですけど、可愛いから! では全然なくて(笑)、その生き方や面白みにすごく興味があるんです。なかでも「絶滅」って面白いなと思ったきっかけは、『理不尽な進化:遺伝子と運のあいだ』(吉川浩満著、増補新版:筑摩書房)という本を読んだことでした。この本には、進化論をひも解きながら、進化の理不尽さや不条理さがまとめられているんです。

 たとえば「進化」と聞くと、直感的には「強くなる」「良くなる」など、「前向きで良いこと」だと思いがちじゃないですか。でも、「進化」というのは単に「変わっていく」ことでしかなくて、その結果、繁栄する生きものも、絶滅する生きものもいる。進化のすえに絶滅してしまうというのは理不尽な出来事だけど、なぜだか、それゆえのおかしみも感じる。だから、この「絶滅という現象の面白さ」をもっと多くの人に知ってもらいたい!と思うようになったんです。

――「絶滅の面白さ」を知る本、というのは、たしかにあまりなさそうです。

金井:「絶滅」をテーマにした本で売れているものもあるのですが、どれも難しいし、読んでいて悲しい気持ちになってくる。私自身が、難しいことも悲しいことも苦手ですし、児童書を読む年代のお子さんならなおさらです。それに、まだ10年前後しか生きていない子どもの読者さんたちが、過去の絶滅動物について責任を感じたり悔い改める必要ないんじゃないかなと思うんです。

 だから、まずは絶滅について「楽しく」知ってもらう入り口になるような、エンタメ性の高い本を作りたい! と考えて企画しました。この「わけあって絶滅」シリーズをきっかけに、生きものや絶滅に興味をもった読者の方には、どんどん別の生きものの本も読んでもらいたいです。

眼がイキイキしすぎたらダメ

――「絶滅」という直感的には悲惨で悲しいテーマを、エンタメ性が高くて面白く読めるようにするって、アンビバレントでいかにも難しいですが、実際に両立できてるのがすごい。『わけあって絶滅しました。』では、絶滅理由が「油断して、絶滅」「やりすぎて、絶滅」「不器用で、絶滅」「不運で、絶滅」……などコミカルにまとめられていたり、生きものたちが自分で絶滅理由を語っていたりするのも楽しいです。

金井:生きものたちが「自分がたり」をしているのが結構ミソかなと思います。企画段階で著者の丸山貴史さんと議論していて、「なぜ滅んでしまったのか」に焦点を当てて説明すれば、その生きものが在りし日の良いところも含めて紹介できるね、という話になったんです。

子どもと大人の感想が真っ二つに分かれる90万部ベストセラーの秘密ステラーカイギュウが、絶滅してしまった理由を自分で説明している。左下には基礎データ・情報も。

 もし第三者が絶滅理由を解説する形式で、あの子はこうして「死にました」、この子もこんなふうに「死にました」……という話が続くと、読んでいて悲しくなるじゃないですか? でも、それぞれの生きものが自分の口で絶滅に至ってしまった理由を説明すれば、読む側としては思い出話を聞くように、悲しくなりすぎずに読めます。それで、絶滅した生きものみずからが絶滅理由を語る、というコンセプトが固まりました。書籍タイトルも一人称にして、『わけあって絶滅しました。』にしよう、とこのスタート時点で決まったんです。

――どのページから読んでも楽しいですね。

金井:もちろん全体の流れを考えて、面白い順に並べたつもりですが、見開きで一つ一つのストーリーが完結しているので、どこから開いて読んでもらってもいい、気軽に読めるというのを意識してつくりました。

――イラストも、コミカルすぎないけどジワジワくる面白さがあって、色使いや構図など含めてすごく味があります。

金井:生きものが一人称で語っていくストーリーなので、イラストも物語性を感じさせるタッチでありながら、眼がイキイキしすぎないように気を付けて、そこはイラストレーターさんにもかなりお願いした部分です。

――「イキイキ」したらダメなんですか?

金井:もちろん、適度にイキイキしているのは大事なんですけど。実際に生きている生きものって、そこまで眼がキラキラしてないじゃないですか。人間もそうですけど、日常ってそんなにイキイキしてない(笑)。でも、むしろそういう眼の方が、見る人によっていろんな読み取り方をすることができます。だから、読者がそれぞれの解釈で物語を読み取れるような、想像の余地がある眼を描けるイラストレーターさんに描いていただきたいと思って、サトウマサノリさんとウエタケヨーコさんにお願いしました。それぞれの生きものについて「お調子者」「少女漫画の主人公」……などとキャラクターを設定して、特徴を際立たせてもらうようにもしました。

――それぞれの生きもののキャラが立ってますよね。上にイラストを載せたステラーカイギュウはいかにも「やさしすぎて、絶滅」しちゃったと納得できるノンビリした様子だし、ほかにも例えば「アゴが重すぎて、絶滅」したプラティベロドンは次のように自分がたりを始めます。

「どうも~ゾウでーす」ってなんやその目は。
ワイのアゴを見てるの、バレバレやで!
めっちゃ下アゴ出てるけど、ワイもゾウのなかまなんや。
パチモンちゃうで。

ワイはこの平たいスコップみたいな歯で、
草の根をほったり、木の枝を切ったり、木の皮をはがしたりして食べていたんや。
「最高じゃん!」と思ったおまえ、甘いで。
めっっっちゃ重いっちゅうねん!(……続く)
子どもと大人の感想が真っ二つに分かれる90万部ベストセラーの秘密関西弁のプラティベロドン(『わけあって絶滅しました。』56-57ページ)

 この自分がたりの部分はマンガのように面白く読める一方、「絶滅年代」や「生息地」「大きさ」などの基礎データや、ゾウの仲間の進化に関するきちんとした解説もついているから、勉強にもなるなーと思いました。