デザインは、地方の動きが面白い

 デザイナーが書いた本で、書店で目立っているのは、国レベルのビッグプロジェクトに名前を連ねるような、有名デザイナーの著作です。彼らの思考は、確かにとても興味深い。しかし、一会社員が、大物デザイナーに発注したり相談したりする機会はそうそうありません。どちらかというと「予算も期間も限られた中で、どうにかカタチにしたい!」という課題に直面にしている人の方が多いはず。

 もっと日々の仕事の参考になる本はないだろうか? そんな視点で見つけたのが、本書『おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる』です。

 編著者の新山直広さんは、まえがきで、地域にいるデザイナーを「地域資源を複合させて新たな価値を生み出す人々」と紹介します。日本各地で今、デザイナーが核となった地域活性化プロジェクトが次々に立ち上がっているというのです。

 私のいる出版業界にも、確かに同じような流れがあります。かつて出版業といえば、首都圏に極端に偏った産業で、「本は東京の特産物」といわれるほどでした。出版社はもちろん、印刷、製本、取次などの関連ビジネスも東京に集中していて、物流もほぼ首都圏から地方への一方通行。「出版ビジネスは東京でしか成り立たない」といわれていたのです。でも、それも過去の話です。地方を拠点にする元気な出版社や書き手が続々と登場していて、素晴らしい実績を生み出しています。そういえば、本書の版元である学芸出版社も京都の出版社です。コロナ禍で地方に脚光が当たったことで、こうした動きはますます加速するでしょう。

地域課題を解決する「デザインの力」とは

 本書には21人のデザイナーたちが登場します。拠点も仕事の内容も多種多様ですが、「この地域で仕事を始めたきっかけ」「仕事の全体像」「仕事・生活の実際」といった項目がフォーマットに沿って書かれているので、比較しながら読み進められます。

 全ての事例を通じて、私が特に興味深く読んだのが「仕事の全体像」という項目です。具体的な業務はもちろん、周辺の人たちとの関係性や提供価値が、分かりやすく説明・図解されているのです。

 例えば、本書に最初に登場する小林新也さんは、兵庫県小野市を拠点にしているデザイナー。彼は自分の仕事を「ものづくりの持続可能性のデザイン」であると語ります。「地域の伝統産業の後継者不足」という課題をデザインの力で解決するために会社を立ち上げ、職人の後継者を育てる仕組みを作ったり、海外に販路を開拓したり……。こうした活動を通じて、小林さんは「このままでは後継者だけでなく、原材料を確保するのも難しくなってしまう」という新たな課題に気付きます。そして、資源を持続的に生み出すために、里山を再生させるプロジェクトもスタートさせるのです。

 予算は少なく、人手も少ない──。それが地方の現実です。そのため、本書に登場するデザイナーたちは「デザイナーの定義とは?」などと立ち止まらず、目の前の課題を自分ごととして受け止めながら、どんどん課題解決に乗り出していきます。そして気付けば、「こんなことまで!」と驚くような領域にまで、手も足も突っ込んでいる。「やるべきこと」が無限に広がる中で、21人がそれぞれ「オリジナルの仕事像」をつかんでいくプロセスが示されているのが本書の面白さです。

 地域に密着した仕事は、人のつながりが大切です。プライベートと仕事の線引きも難しい。だからこそ、仕事の定義や、提供価値を明らかにすることはとても重要です。資金や売り上げなどのリアルな数字が示されているのも本書のポイント。先ほどの小林さんの場合、会社の立ち上げ時に150万円の資金をかけ、現在の売り上げは6000万円だそう。デザイナーにとっても、非デザイナーにとっても参考になる情報ではないでしょうか。