「あれ? いま何しようとしてたんだっけ?」「ほら、あの人、名前なんていうんだっけ?」「昨日の晩ごはん、何食べんたんだっけ?」……若い頃は気にならなかったのに、いつの頃からか、もの忘れが激しくなってきた。「ちょっと忘れた」というレベルではなく、40代以降ともなれば「しょっちゅう忘れてしまう」「名前が出てこない」のが、もう当たり前。それもこれも「年をとったせいだ」と思うかもしれない。けれど、ちょっと待った! それは、まったくの勘違いかもしれない……。
そこで参考にしたいのが、認知症患者と向き合ってきた医師・松原英多氏の著書『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』(ダイヤモンド社)だ。
本書は、若い人はもちろん高齢者でも、「これならできそう」「続けられそう」と思えて、何歳からでも脳が若返る秘訣を明かした1冊。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、脳の衰えを感じている人が陥りがちな勘違いと長生きしても脳が老けない方法を解き明かす。

人の名前が出てこなくなった…<br />えっ、これって認知症の一歩手前?<br />【脳を鍛えるためにできること】<br />91歳の医師が<br />10年以上続けてきた日課とは!?Photo: Adobe Stock

認知症の“最大のリスク”とは?

私は1931年生まれ、今年(2022年)で91歳の現役医師です。代々医者の家系で、幼い頃から父親に「医者は死ぬまで医者、死んでも医者、診察室で死ねたら本望なんだ」といわれて育ってきました。

その言葉通り、父は生涯現役を貫きました。ただし、心臓病を患い、残念ながら65歳の若さで亡くなってしまいました。父は、認知症になるほど長生きしなかったのです。「認知症になるほど」というのも、認知症の最大のリスクは「長生き」なのです。

91歳の医師が10年以上続けている日課

私は毎朝、認知症の患者さんたち10人ほどに電話をかけています。だいたい7時半から始めて8時半まで、1時間ほどかかります。

かれこれ10年以上続けている日課で、この他にも週1回ずつ電話をかける患者さんが、60人ほどいます。なかには15年以上、電話をかけ続けている患者さんもいるのです。

電話をかけるといっても、ただ「おはようございます」と挨拶して、元気なのを確認するだけではありません。そこで「思い出す作業」をしてもらいます。私から促さないと、認知症の患者さんは、自ら思い出そうとしないからです。

認知症患者の切実な実態

患者さんとの会話は、「今月の合言葉は?」から始まります。私は患者さんたちと、事前に毎月の合言葉を決めているのです。誰でも知っている月ごとの行事を合言葉にしています。

2月なら節分、3月ならひな祭り、4月なら入学式、5月なら鯉のぼり、7月なら七夕、10月ならお月見……といった具合です。でも、認知機能に問題を抱える患者さんは、昨日答えられたからといって、今日も同じように答えられるとは限りません。

「今日は何月?」「ええと、うんと……4月です」「そう、4月だよね。じゃあ、4月の合言葉は?」「……」といった感じになることも、よくあるのです。

“脳細胞の連想ゲーム”をする

答えられない患者さんは、電話口で焦あせっているのが伝わってきます。ですから、まずは落ち着いてもらうために、深呼吸を3回ほどしてもらってから、私がヒントを出します。

「4月になると、小学生がランドセルを背負って、嬉しそうに出かけるじゃない。桜も満開。ご両親も、つき添って出かけるでしょ」などと誘導してあげると……「あ、入学式。4月といえば入学式でした」といった具合に、私が出したヒントを手がかりに、合言葉にたどりつくのです。

そのとき、患者さんの脳内では、神経細胞同士で連想ゲームのようなやりとりがされています。そのやりとりが、認知機能の低下に少しでもブレーキをかけてくれることを、私は期待しているのです。

日付を答えるのも困難に

毎月の合言葉が終わったら、次に「今日は何月何日?」と尋ねます。さきほど、4月の入学式という合言葉を思い出したばかりなのに、問いかけが変わるだけで答えられないケースも少なくありません。

その場合は、「イチ、ニイ、サンの次は、何?」と誘導して、「シイ、あ、4月です」と、何月かを導き出します。次は、何日かです。今日は何月かが出てこない患者さんにとって、何日かを正しく答えるのはさらにたいへんな作業です。

患者さんだけでなく自分にも切実な問題

そこで私は、また助け舟を出します。8日なら「末広がり」、11日なら「棒が2本」、23日なら「にいさん、寄ってらっしゃいよ!」といった言葉遊びをしながら、何日かを答えてもらうようにしているのです。

とても根気のいる作業ではありますが、患者さんとのコミュニケーションは、私自身の脳活性にもつながっています。この年まで生きた私にとっても、認知症は切実な問題なのです。

※本稿は、『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』より一部を抜粋・編集したものです。本書には、脳が若返るメソッドがたくさん掲載されています。ぜひチェックしてみてください!