多くの日本人は気づいていなかったが、2000年以降のアメリカでこの100年起こっていなかった異変が進行していた。発明王・エジソンが興した、決して沈むことがなかったアメリカの魂と言える会社の一社、ゼネラル・エレクトリック(GE)がみるみるその企業価値を失ってしまったのだ。同社が秘密主義であることもあり、その理由はビジネス界の謎であった。ビル・ゲイツも「大きく成功した企業がなぜ失敗するのかが知りたかった」と語っている。その秘密を20数年にわたって追い続けてきたウォール・ストリート・ジャーナルの記者が暴露したのが本書『GE帝国盛衰史 「最強企業」だった組織はどこで間違えたのか』(ダイヤモンド社刊)だ。電機、重工業業界のリーダー企業だったこともあり、常に日本企業のお手本だった巨大企業の内部で何が起きていたのか? ついに、同社のすべての好循環を生み出していて格付けが揺らぐ日がやってきた。(訳:御立英史)

トリプルAPhoto: Adobe Stock

引き下げられた格付け

 減配後、当初の値動きは期待を感じさせた。株価はしばらく下がり続けたが、その後ほぼ下げ止まり、反転した。6・66ドルの底値をつけたのち、数週間後には10ドル超えまで回復した。

 GEはさらなる方策として、GEキャピタルに関する投資家説明会を再度開催し、状況を徹底的に説明した。キャピタルの幹部は5時間かけて、あらゆる事業とその収益の仕組みを説明し、懐疑的なアナリストの支持を取り戻そうとした。

 GEはなんとしてもこの傾向を止めなくてはならなかった。もし株価の下落が止まらなければ、GEでさえ消滅する可能性がある。米国を象徴する有名企業が次々に姿を消したことからも、その可能性が否定できないことは、残酷なほど明らかになっていた。

 ニューヨーク・タイムズのビジネスコラムニスト、ジョー・ノセラは、2009年3月、株価が底値付近にあったGEの状況を記事にした。ノセラはイメルトのファンであることを公言しており、2年前の記事では、新しいタイプのリーダーシップと事業に取り組む姿勢を称賛している。しかし、今度はまったく異なる論調で、信頼性に欠け、不透明な財務状態にあるGEを批判した。GEは現金を必要としていないというキース・シェリンの最近の主張を詳しく分析したうえで、自分たちにとって都合のよい数字と「堅実なイメージ」だけで、投資家の信頼を得ようとするGEを非難した。

 ノセラは、ベアー・スターンズ、リーマン・ブラザーズ、AIG、メリルリンチ、シティグループなど、今回の危機で大打撃を受けた他の企業を引き合いに出して、「これは前にも見た展開だと思わずにはいられない」と書いている。

 GEキャピタルは、資産のほとんどを市場価格に合わせて計上していないため、市場の低迷期には、財務の数字が現実とかけ離れてしまう。ノセラは、GEにとって唯一の問題解決策は、GEキャピタルの投資家向け説明会ですべてを詳細に開示し、投資家が心配すべきことは何で、心配しなくてもよいことは何かについて、納得のいく説明をすることだと述べた。

 だが、ノセラはさらにこう続けている。「そうしたところで、シェリンの話を額面どおりに受け取る投資家はもういないだろう」

 トリプルAの格付けもぐらついていた。高い格付けは、数十年にわたってGEの成功の鍵だった。この格付けがあればこそ、製造業を運営する資金や、GEキャピタルの融資資金を、安価に調達することができたのだ。

 2009年3月12日、スタンダード&プアーズはGEの信用格付けを引き下げ、その十数日後にはムーディーズも引き下げた。格下げは現実の厳しさを痛感させたが、だれも驚かなかった。GEの金融サービス事業のポートフォリオを考えると、それまでの格付けが高すぎたのだ。格付会社は、企業の格付けを下げるときは、一定の猶予期間を設けてチャンスを与えることが多いが、GEはそこでも踏みとどまることができなかった。

 格付会社は、一流企業の条件から明らかに外れている懸念事項を挙げた。GEキャピタルは、リスクのある資産を6000億ドルも抱えていた。そこには280億ドルのプライベート・ラベルのクレジットカード事業、220億ドルの住宅ローン、810億ドルの商業用不動産などが含まれていた。

 GEは、この格付け引き下げについて、「当社の健全性が確認された」と述べて重視しなかった。しかし、この格下げが、GEの精神と神話の域に達した卓越性に、歴史的打撃を与えたことは間違いない。