起業家の思考法は弱者の競争戦略
朝倉:事業も個人のキャリアも、共通する部分ですよね。正攻法では、どこまでいってもリソースを持っているほうが勝つのが当たり前です。たとえば決済系のサービスを見ても、最後は物量を持っている会社が勝つ。個人のキャリアでも、小学校、中学校、高校、大学と少しでも良い学校に行き、少しでも良い就職先を目指していると、いつまでたっても偏差値教育の延長線上で、間違いなく上には上がいるのです。自分がもっとも優れているという状態になることは、基本的にありません。
そうなると抜きん出るためには、他と差別化するような「別のやり方」や、なおかつ自分が納得できて、自分だからこそできるような「自分らしいやり方」を見出さないと、最終的にはコモディティ化していくといきます。
みんなが良いと思っているから「優れたやり方」なのであって、みんなが同じところに群がったら「優れた度合いの偏差値」の競争になる。これは疲弊するし、基本的には無理ですよね。だって、絶対に自分より優れている人がいるからです。
平尾:このベン図では、「AかつB」「BかつC」「CかつA」というところに自分のオリジナリティがあると思っています。
「優れたやり方」かつ「自分らしいやり方」を「コモディティ」と言葉で表現したのは失礼かもしれませんが、多くの人がそちらに向かっていると感じたので、そこから脱出するために「別のやり方」を入れることを提案しました。
また、「自分らしいやり方」かつ「別のやり方」ばかりやっている人は、優れている要素を無視しているので「独りよがり」と表現しました。これには、ある段階で気づく人が多いと思います。私もリクルートにいるときに一種の「イノベーション病」にかかっていました。新しいことだけに価値があり、誰かがやっていたら価値がないという発想です。それではあまり上手くいきませんでした。その反省があったからこそ、「独りよがり」としたのです。
そして、「優れたやり方」かつ「別のやり方」という究極の矛盾に対しては、「長続きしない」というワードを使いました。私は投資家ではありませんが、事業の目利きは得意です。投資に対してリターンが出るのでM&Aはうまくいっているのですが、そこには投資するだけではなく自分たちで事業に取組みたいという気持ちがあります。この「できるけれども好きではない」という感覚が大事だと思っています。だからこそ、「自分らしさ」を入れなければならないのです。
株式会社じげん代表取締役社長執行役員 CEO
1982年生まれ。2005年慶應義塾大学環境情報学部卒業。東京都中小企業振興公社主催、学生起業家選手権で優秀賞受賞。大学在学中に2社を創業し、1社を経営したまま、2005年リクルート入社。新人として参加した新規事業コンテストNew RINGで複数入賞。インターネットマーケティング局にて、New Value Creationを受賞。
2006年じげんの前身となる企業を設立し、23歳で取締役となる。25歳で代表取締役社長に就任、27歳でMBOを経て独立。2013年30歳で東証マザーズ上場、2018年には35歳で東証一部へ市場変更。創業以来、12期連続で増収増益を達成。2021年3月期の連結売上高は125億円、従業員数は700名を超える。
2011年孫正義後継者選定プログラム:ソフトバンクアカデミア外部1期生に抜擢。2011年より9年連続で「日本テクノロジーFast50」にランキング(国内最多)。2012年より8年連続で日本における「働きがいのある会社」(Great Place to Work Institute Japan)にランキング。2013年「EY Entrepreneur Of the Year 2013 Japan」チャレンジングスピリット部門大賞受賞。2014年AERA「日本を突破する100人」に選出。2018年より2年連続で「Forbes Asia's 200 Best Under A Billion」に選出。
単著として『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』が初の著書。
朝倉:そもそも、経営者という職業はAIには絶対に代替できないものです。経営戦略も、あるいは組織のつくり方に関しても、究極は自分が培ってきた価値観がにじみ出るものだと思うのです。絶対に、その人にとっては必然にならざるを得ないやり方がにじみ出るし、そこからはみ出したことをやろうとしても、丈さんの言葉を借りると「優れたやり方」かつ「別のやり方」では長続きしない。
一方で、「自分らしいやり方」だけでは提供者都合の発想に陥ってしまいますよね。自分らしいものだとしても、マーケットのニーズがなければ意味がない。
「優れたやり方」は、世の中で受け入れられているものだから、成功している要素も一定程度必要です。でも、それをそっくりそのままやってしまうと、大資本に勝てるわけがありません。だからこそ、「別のやり方」をしなければならない。これは、起業家ならではかもしれませんね。大企業の経営者だったら、「優れたやり方」と「自分らしいやり方」だけでいいのかもしれません。
平尾:そうですね。最強の「コモディティ」で勝ち続けられる。
朝倉:でも残念ながら、我々は「持たざる起業家」なので、弱者ですから。弱者は弱者なりの戦い方をしなければならない。
平尾:『起業家の思考法』は、弱者の競争戦略でもあると。
朝倉:僕はそう思いますね。だけど、だからこそおもしろい。
平尾:持っていないから、工夫して考える。だから、オリジナリティが生まれる。
朝倉:逆に大企業だと、勝ちパターンやフレームワーク、組織の慣性があるから「別のやり方」ができそうもないですよね。弱者だからこそ「別のやり方」ができる。だからこの『起業家の思考法』は、本当にうってつけだと思います。
〈第2回へ続く〉
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