仕事、人間関係…周囲に気を使いながらがんばっているのに、なかなかうまくいかず、心をすり減らしている人も多いのではないだろうか。注意しているのに何度も同じミスをしてしまう、上司や同僚といつも折り合いが悪い、片付けが極端に苦手…。こうした生きづらさを抱えている人の中には、「能力が劣っているとか、怠けているわけではなく、本人の『特性』が原因の人もいる」と精神科医の本田秀夫氏は語る。本田氏は、「生きづらさを感じている人は『苦手を克服する』ことよりも、『生きやすくなる方法をとる』ほうが、かえってうまくいくことも多い」と言う。本田氏が精神科医として30年以上のキャリアを通して見つめてきた「生きづらい人が自分らしくラクに生きられる方法」についてまとめた書籍、『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』から、今回は特別に本書の中から、一部内容を抜粋、再編集して紹介する。

【発達障害専門の精神科医が教える】仕事にいつも追われている人が気をつけるべきポイントとは?Photo: Adobe Stock

予定を詰め込みすぎている

やることが多すぎて、スケジュール管理がうまくできない……。
ひとつの作業に時間をかけすぎて、予定通りに進められなくなるといった悩みもあります。
これは会社員の仕事だけでなく、学生の勉強にも当てはまります。

たとえば受験勉強など、複数科目の学習を計画的に進めなければいけない場合、ひとつの教科に時間をかけすぎていては、スケジュールが崩れてしまいます。

「今日は数学と英語と日本史を1時間ずつ勉強する」と計画していたのに、数学の勉強を始めたらやる気が出すぎて、数学だけで3時間も勉強してしまう。
 そのせいで、英語と日本史を勉強する時間がなくなり、翌日以降にどんどんスケジュールがズレていく……。

ひとつの作業に没頭してしまったりして、予定通りに進んでいないのに、ずっと同じように計画を立てていると、いつまでたってもスケジュール管理ができるようになりません。

「きちんと計画を立てたい」「スケジュールを守りたい」「でも、作業はその日の流れで柔軟に進めたい」と複数の目標をかかげていると、どうしても達成できない部分が出てきて、ストレスが多くなります。

「計画を立てたい」「寄り道もしたい」というのは、正反対の目標です。両方を達成するのは難しいでしょう。

しかし、発達障害がある人で、自閉スペクトラム(AS)とADH(*)の特性がどちらもある場合は、ASの特性で「ものごとを計画的に進めよう」とする一方で、ADHの特性で「気がついたことに手を出してしまう」というふうに、「規律性」と「衝動性」がせめぎ合うことがあります。

編集部註 「ADH」とは「ADHD(注意欠陥・多動症)」からディスオーダーの「D」をとった、「注意欠陥・多動」の状態のこと。生活に支障が出るほどではないから医療機関に行っていない状態を指す

このような場合は、あらかじめ「寄り道」を考慮した計画を立てることをおすすめします。

たとえば1日のスケジュールを組むときに、午前に1件・午後に1件くらいの分量で、大まかな予定だけを決めます。

寄り道しながらでもスケジュールを守れるようなら、大成功です。

予定を細かく管理しようとしないで、「大まかな予定でいい」と考える。そのように切り替えてスケジュールを管理すると、うまくいくでしょう。

(本原稿は、本田秀夫著『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』より一部抜粋・再編集したものです)

本田秀夫(ほんだ・ひでお)
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長
特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事
精神科医。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より、同子どものこころの発達医学教室教授。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。日本自閉症スペクトラム学会会長、日本児童青年精神医学会理事、日本自閉症協会理事。2019年、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)に出演し、話題に。著書に『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(以上、SBクリエイティブ)、共著に『最新図解 女性の発達障害サポートブック』(ナツメ社)などがある。