FIRE(経済的自立と早期リタイア)を実現すると、人生はどう変わるのか――。会社勤めの傍ら、さまざまな投資で資産を築いてFIREを実現した『年収300万円からのFIRE入門』の著者・西野浩樹氏に話をうかがった。
FIRE後、それまで納めた年金はどうなる?
日本の年金制度は「3階建てのビル」にたとえられます。私たちが年金を語るとき、「公的年金制度」を指すのが一般的です。
そして、公的年金制度には、日本人全員が加入する「国民年金(1階部分)」と、サラリーマン(会社員や公務員、団体職員)が加入する「厚生年金(2階部分)」があります。
それ以外に「確定拠出年金」(企業型、個人型)などがありますが、これは「私的年金(3階部分)」と呼ばれます。
年金制度の基本を学ぼう
フリーランスや自営業者の人が受け取れるのは、1階の国民年金(老齢基礎年金)のみです。会社員や公務員の人は1階部分に加えて、2階部分の厚生年金(老齢厚生年金)にも加入しています。
給与明細には「厚生年金」としか明記されていませんが、丁寧な書き方をすれば「厚生年金(国民年金を含む)」ということになります。
次に、皆さんが気になる「国民年金(老齢基礎年金)」と「厚生年金(老齢厚生年金)」の受給資格と支給額について説明します。
受給資格については、国民年金は20~60歳までの40年間のうち、国民年金保険料を10年以上納めた人が受け取れます。
厚生年金(老齢厚生年金)は、国民年金に10年以上加入するのが前提ですが、1年でも厚生年金保険料を納めていれば、原則65歳から受け取ることができます。
受給できる年金は、国民年金(老齢基礎年金)については、40年間の保険料をすべて納めた人で年額78万900円(令和3年度)になります。
サラリーマン時代の給与などは一切関係ありません。部長だろうが平社員だろうが社長だろうが、大手だろうが個人商店だろうが、40年間の保険料をすべて納めていれば、年額78万900円です。
40年に満たない場合は、納めた年数を40年で割った割合で計算します。例えば、20年納めた人は、78万900円×20年÷40年=39万450円です。
そして、10年に満たない場合は0円です。9年11カ月納めたとしても0円です。
もし9年11カ月でFIREして、そのあとも国民年金保険料を納めれば、国民年金と厚生年金の報酬比例部分(9年11カ月分の厚生年金)はもらえます。
厚生年金で受け取れる金額は、現役で働いてきたときの月収(賞与含む)が関係してきます。
国民年金は、大手企業だろうが個人商店だろうが、社長だろうが部長だろうが平社員だろうが、同じ金額でしたが、厚生年金は変わります。簡易計算式は次のとおりです。
例えば、勤続40年間(被保険者月数480カ月)の平均月収(40年間の平均標準報酬額)が50万円くらいの部長だったら年額130万円程度、平社員で勤続40年間の平均標準報酬額が25万円くらいだったら年額65万円程度になります。
あくまでも簡易式なので、詳しくは社会保険労務士さんにお聞きください。
会社員時代にトップクラスの昇進で部長まで上り詰め、40年間働いたサラリーマンの年金額は「老齢基礎年金78万900円+老齢厚生年金130万円=合計208万900円」で、月額約17万円になります。
一方で平社員だった場合には、「老齢基礎年金78万900円+老齢厚生年金65万円=合計143万900円」で、月額約12万円です。ここから税金、健康保険料、介護保険料が引かれることになります。
FIREすると、どれくらいの年金がもらえるのか
ここからは、約20年間、会社勤めをしたあとでFIREしたときの年金について考えてみましょう。
サラリーマンをFIREしたあとも国民年金(老齢基礎年金)保険料だけを納め続けた場合は、40年間すべて納めれば、年間78万900円、月額で約6万5000円の国民年金になります。
次に老齢厚生年金ですが、日本の企業は定昇制度が色濃く残っており、サラリーマン時代の後半になるほど給料が高くなって、その分、老齢厚生年金も多く積み立てることができます。
FIREしたときに、自分が勤めていた期間の平均標準報酬額がわかれば計算しやすいのですが、わからない場合は、簡易式として辞める直前の標準報酬額に0.9を掛けて計算してみましょう。
計算式はこちらになります。
私の場合、辞める直前の標準報酬額は40万円だったので、「40万円×0.9×0.005481×270カ月=約53万円」となり、月額4万4000円程度になります。
私がFIREしたあと、国民年金だけをすべて納めるとしたら、65歳からもらえる年金は老齢基礎年金が月額約6万5000円、老齢厚生年金が月額約4万4000円で合計約10万9000円の年金になりそうでしたが、私の場合は、自分の法人の役員として役員報酬を月額6万円に設定して社会保険料を払っているので、65歳までの残り270カ月間払い込むと、標準報酬額21万円×0.005481×540カ月=62万1545円となり、老齢厚生年金は月額約5万2000円になりそうです。
年金の保険料や税金は納めておいたほうがいい
老後のことなんて考えていないよという人も多いかもしれませんが、老後は必ず訪れる未来です。
国民年金を40年間すべて納めても月額6万5000円程度という数字だけ見ると、決して多いと思われないことから「年金は納め損なんじゃないか?」と思うかもしれません。
実際、国民年金保険料を払わない若者が増えていることは社会問題にもなっています。
しかし、FIREするから年金は払わなくてもいいと思うのはあまりにも安易な考えです。
よく考えてみてください。現在(令和3年度)の国民年金保険料は月額1万6610円ですから、年間約20万円の保険料を40年間納めたところで、約800万円です。
それに対して、老後は年間約80万円の老齢基礎年金を給付されるわけですから、10年で元が取れる計算です。
さらに障害補償と遺族補償の特約付きと考えれば、「絶対に納めたほうがいい」と思います。
つまり、65歳から支給してもらい75歳以上生きれば、お得になる制度なのです。
余談ですが、FIREしてから次の働き方が決まるまでの期間は、くれぐれも「未納」状態ではなく「免除」状態にしておくことが大事です。
「未納」状態で障害者になった場合や、亡くなった場合、何も支給されないかもしれません。
詳しくは、各地域にある年金事務所の社会保険労務士に聞いてください。一時期、年金事務所の不祥事が問題になったことから、最近はとても親切に教えてくれます。
社会保険のことは社会保険労務士に、税金のことは税理士に聞きましょう。なんでも税理士に相談すると、自分の法人に利益が出始めたら、「給与所得控除を使って節税しましょう」と言って、すぐに給与を上げようと提案してきます。
しかし、給与を上げると、社会保険料も上がります。社会保険料が増えたら、将来的には年金が増えますが、将来的に年金が増えるよりも、税金を納めて銀行の評価を上げておいたほうがいいと思います。
税金を納めれば、金利が安くなったり、融資を受けやすくなるといったメリットがあるので、私は、税金は有利な条件を引き出すための経費と思って、歯を食いしばって納税しています。