FIRE(経済的自立と早期リタイア)を実現すると、人生はどう変わるのか――。会社勤めの傍ら、さまざまな投資で資産を築いてFIREを実現した『年収300万円からのFIRE入門』の著者・西野浩樹氏に話をうかがった。
FIRE前に社内の制度を確認しよう
FIREに踏み切る準備が整ったら、退職の際に利用できる制度を確認しましょう。年齢によっては、早期退職制度などで退職金の上乗せがあるかもしれません。
会社に辞めることを悟られることなく、社内制度について秘密裏に調べましょう。
39歳でFIREしようとしても、40歳以降になれば退職金の上乗せがあるのなら、あと1年待ったほうがいいでしょう。
もし上乗せの条件があるなら、その条件を満たすようにしておく必要があります。
ほかにも、早期退職のリストラが行われそうなら、早めに動いておくことで、退職金の上乗せをもらえる可能性がありますし、人員整理の会社都合で辞めた場合は、失業手当が早くもらえたり給付期間の上乗せがあったりします。
FIREの準備が整っているなら、そのタイミングで「無念」と言って手を挙げるのもいいでしょう。
企業年金の制度を事前にチェック
ほかにも、企業年金制度を調べておく必要があります。
会社の企業年金制度が確定給付企業年金(DB)だった場合は、一時金として受け取るか、年金(老後まで据え置き。一般に勤続20年以上に限る)として受け取るかを選べます。
一時金として受け取る場合は、退職金と同時に現金で受け取ることになりますが、会社によっては別々に振り込まれることもあります。
年金受け取りにした場合、老後までの据え置きが一般的ですが、中には5%程度で複利運用してくれる会社もあるので、必ず調べてから選択しましょう。
会社の年金制度が企業型確定拠出年金(DC)だった場合には、原則として60歳になるまでは受け取れない仕組みなので、個人のiDeCoに資産を引き継ぎます(2022年5月より企業年金連合会に移管して運用を任せることも可能になりました)。
すでにiDeCoをやっていて、会社から天引きされていた場合は、個人口座からの引き落としに変更し、会社を退職して資格が変わった旨の手続きをする必要があります。
退職金とそのほかの手続きをする
退職金の受け取り方としては、ポイント制を導入している会社が多く、これまでの会社の貢献度によって計算されます。
退職金はFIRE後の大きな資産になりますので、必ず事前に調べておきましょう。
また、退職のときに限って有休を買い取ってくれる会社もあるので、退職日を初めから決めてしまうのではなく、自分の都合に合わせて有休を消化してから辞めるのか、それとも有休の未消化分を買い取ってもらうのかを会社と協議しましょう。
退職金については、勤続年数をもとに退職金控除が受けられ、全額が課税対象になるわけではありません。
勤続20年までは年当たり40万円、それ以降は年当たり70万円の非課税になります。これ以上の超過した分について、課税対象となるのはその半額となるので、無税もしくはごくわずかの課税で退職金を受け取ることができます。
退職時に会社から受け取る書類に記入して提出すれば、税務上の手続きをすべて会社が代行してくれるところがほとんどですが、中には自分でしなくてはいけない会社もあるので、その場合は必ず次の年の確定申告で退職金控除の手続きをしましょう。
そのほか、会社に関連して、積み立てていた財形貯蓄や持ち株会やグループ保険などの手続きも必要になります。
退職に伴って、解約の手続きをしたり、個人の口座に移管したりすることになります。
ちなみに、私はこのタイミングですべての保険を解約しました。会社の付き合いで加入していた生命保険から、医療保険、自動車保険、ゴルフ保険まで全部を解約して、今は自宅の火災保険と自動車保険、収益アパートの火災保険だけになりました。
退職願を書く日までにやるべきこと
最後に「退職願」を出すことになります。「辞表」は会社役員や公務員が用いる退職届のことなので、間違えてはいけません。
退職願を出して、上司と話し合い、退職が認められて、正式に労働契約の解除を届け出ることになり、これを退職届と言います。
会社によっては退職届の提出を義務づけていない会社や独自の形式で提出を求める会社もあります。
民法では、「解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」(退職届の提出から2週間後、退職が認められる)としていますが、会社によっては「退職の届け出は1ヵ月前までに行うこと」といった独自のルールが定められていることがあるので注意しましょう。
FIREのことは隠して退職届を出す
ポイントとなるのは、退職願・退職届を「いつ」「誰に」「どのタイミング」で渡せばよいかという点です。
早く退職したいからといって、2週間前ギリギリに退職の意思を伝えても、書類が受理されず、取り合ってもらえないことも考えられます。
取り合ってもらえないときは、「退職を相談した日」「退職願を提出した日」のメモをとっておきましょう。
何度相談しても話を聞いてもらえないときは、人事部に直接かけ合うという方法や労働基準監督署に相談する方法もあります。
このとき、FIRE生活に入ることについては絶対に触れないことをおすすめします。「一身上の都合により退職します」と書けばよいのです。
根掘り葉掘り聞かれてもいいように、「親の介護が大変で故郷に帰る」というような追及されにくい内容を用意しておきましょう。
私の場合も「親の介護で故郷に帰る」と言ったのですが、「どうやって家族を養っていくのですか」とか「親の介護よりも、自分の会社人生を大切にしなさい」と言われ、退職を思いとどまるように諭されました。
あのときは言えなかったのですが、今は言えます。「諭していただき、ありがとうございました」と。
私は、同僚と人事課長と人事部長から3回も諭されましたが、あまり追及されないように「もういいんです」と何度も言っていたのを思い出します。
そもそも、完全FIREではなく、ファイナンシャルプランナーの仕事も自分のタイミングでしようと思っていたので、サイドFIREでした。
自分が想定していた以上に会社の皆さんに親身になってもらいましたが、一度も会社にとどまろうとは思いませんでした。
直属の上司に退職を打ち明けたとき、私がいくつかの会社からオファーをもらっていることを知っていたので、てっきり異業種に転職するのだと思っていたようです。
自分で起業すると聞いて、上司は椅子から転げ落ちそうになっていました。
そもそも社内の人には、FIREとかセミリタイアするということは絶対に悟られてはいけません。私自身も退職して1年たつまでは悟られずにいました。
日本の社会では、普通に定年まで働くという画一的な生き方のレールから外れる人に対して、「何年かしたら泣くに決まっている」「絶対にうまくいくわけがない」という「すっぱい葡萄」の考えを押しつけてくるので、気をつけなければいけません。