すれ違いの問題を
いかに解決するのか

 前述のように高速化を妨げる最大の問題は「すれ違い」だ。これを解決するためには、すれ違い自体を避けるか、すれ違いがあっても問題がないようにするかしかない。

 すれ違いを避ける最もシンプルなアイデアは、新幹線と在来線(貨物列車)の運行時間帯を分離するという案だ。だが列車本数の維持と夜間保守時間の確保を前提とすると、両者を完全に分離するのは不可能なので、新幹線専用時間帯は安全確認に必要な時間を含めて2時間程度しか確保できない。その場合、時速200キロ以上の高速運転が可能なのは1日1往復程度でしかない。

 もし完全な分離を行うとしたら最終的には第2青函トンネルの建設に帰結する。だが膨大な事業費をかけてまで建設するメリットがあるとは言えないし、第1青函トンネルほどでないにせよ、長い工期を要するため結局、高速運転が実現するのは相当先だ。

 一方、すれ違いを許容した高速化のアイデアとしては、トンネルの上下線の間に隔壁を設置し、物理的に分離するというものがある。一見、良さそうな案だが隔壁の自重にトンネルが耐えられるよう、アンカー打ち込みなど大規模な補強が必要となり、約1600億円もの事業費が見込まれる。またそれ以上に青函トンネル内での大規模工事は非常に難易度が高く、長期の工期を要する上、列車運行に多大な影響を及ぼすだろう。

 最も大胆なのは貨物新幹線の導入だ。新幹線と在来線のすれ違いが危険なら、新幹線と新幹線のすれ違いにしてしまう。つまり、貨物列車のコンテナを貨車ごと新幹線の車内に格納して高速走行する貨物専用新幹線を開発しようという案だ。

 非常に夢のある話だが、まったく前例のない車両、システムの開発は簡単な話ではない。在来線と新幹線の連絡貨物ターミナルの整備にも時間が必要だ。今なお高速化の切り札として期待する声も大きいが、札幌延伸開業まで9年を切った今、既に時間切れと言わざるを得ない。

 最後は発想の転換だ。速度差のあるすれ違いが危険なのだとしたら、すれ違う時だけ在来線特急並みの速度に減速すればよいのである。そこで現行の信号システムなどを活用して、すれ違い時のみ自動的に減速するシステムを開発しようというアイデアだ。

 だがすれ違いの問題は解決したとしても、コンテナの落下など線路支障を防ぐ手立てが必要となり、トンネル内にカメラやセンサーを設置し線路状態を常時監視するシステムの導入、または貨物列車の後部に監視・検知機能を備えた検査用車両を連結するなどの安全対策が必要で、構想の具体化には至っていない。