社会保険や労働保険、人事・労務管理の専門家である社会保険労務士。手続き代行と簡単な労務相談で企業から顧問料をもらう“鉄板”ビジネスモデルは、電子申請やデジタルツールの出現で崩壊寸前となっている。特集『会計士・税理士・社労士 経済3士業の豹変』(全19回)の#6では、環境変化に対応できなければ淘汰される時代に突入した中で、生き残る社労士の条件を探った。(ダイヤモンド編集部 片田江康男)
受験者数の増加が続く社労士
ビジネスモデル崩壊が始まった!
「社会保険労務士の“鉄板”ビジネスモデルが、音を立てて崩れ始めている」
そう指摘するのは、東京を拠点とする社会保険労務士法人、竹内社労士事務所の竹内睦代表だ。
人事・労務管理の専門家である社会保険労務士。企業の社会保険や労働保険の手続きを代行したり、就業規則の作成、雇用関連の助成金申請、労働相談などに対応したりすることが主な業務である。
社労士業界は、中小零細法人・事務所の集合体だ。2021年3月末時点で登録者数は4万3474人で、そのうち開業している社労士は2万4423人。社労士法人は社員100人を超えれば大手といわれ、社労士法人2120のうち、社労士1人だけの“1人事務所”が4割強の895に上る。
社労士試験合格者数は15年からV字回復しており、人気が復活している。ところが竹内代表によれば、崩壊は確実に進んでいるという。中でも崩壊が激しいのは、中小企業を顧問先に抱え、手続き代行を主要業務とする地方の1人事務所だという。
地方1人事務所の典型的な業務とビジネスモデルはこうだ。
顧問先で新入社員が入社したり退職者が出たりすると、その会社に出向く。当該社員の情報を得て手続き書類を作成。年金事務所などの提出先を回り、再び顧問先へ。手続き終了の報告がてら、場合によっては社長の人事・労務関連の愚痴に付き合う。
顧問料は月2万~3万円が相場。地方1人事務所の社労士は20社程度の顧問先を抱えていることが多く、上記の一連の業務で月の売上高は40万~60万円となる。
経費はほとんどかからない。事務所を自宅にしている社労士も多く、かかるのは移動のための車のガソリン代や通信費くらいだ。その月に入社や退社など、手続きが必要な案件のない会社はざらにあり、そうなればその顧問先からの月額顧問料は丸もうけとなる。
そんな“おいしい”ビジネスモデルを崩壊させる最大の要因とは何か。次ページでその要因を解説するとともに、社労士が生き残るための条件を探っていく。