日本史の偉人の「すごい」と「やばい」を対比させ、今まで広く知られていなかったレアなエピソードまでクローズアップした『東大教授がおしえる やばい日本史』がシリーズ59万部のベストセラーとなっている。新刊『東大教授がおしえる さらに!やばい日本史』も発売直後から話題を集め売れ行き好調だ。
そこで、小学生から90代まで幅広い世代から届いたアンケートはがきで人気だった「やばい戦国武将」ベスト3を紹介。監修者である東京大学史料編纂所教授の本郷和人氏に、ベスト3にランクインした戦国武将の素顔について解説してもらった。(取材・構成:樺山美夏 初出:2021年8月28日)

東大教授が解説「やばい戦国武将」ベスト3【書籍オンライン編集部セレクション】

第3位 真田幸村
やるときはやるけど死ぬのもあっけない「セミ人間」

 NHK大河ドラマ『真田丸』の影響で注目を集めて、日本一の兵(ひのもといちのつわもの)と呼ばれたほどの真田幸村ですから、3位にランクインするほど人気があるんでしょうね。でも僕は、幸村のことはセミ人間だと思っています。

 彼は関ヶ原の戦いに負けて流罪となり、14年間くらいやることなくてニートみたいな生活をしていたんです。でもそのあと巻き返して華々しく活躍して、あっという間に死んでしまった。

 セミも7年間は土の中にいて、地上に出てきたと思ったらミンミンミン大きな鳴き声で存在をアピールしたあと、あっけなく死んじゃうでしょう。幸村も一緒ですよ。やるときはやるけど、やったらあっけなく死ぬ。そういう人間です。

第2位 徳川家康
いろんな意味で「突き抜けた」武将

 徳川家康はなんと言っても、260年の太平の世の基礎を築いた人ですからね。2位に選ばれるのもわかります。でも、意外と知られていない顔もあるんですよ。

 あんまりえげつないから、子どもたちにも読んでほしい『東大教授がおしえる やばい日本史』には載せられなかったけど、家康は若い頃、熟女好きだったんです。2人の本妻のほかに、妾が20人ほどいました。

 政略結婚で最初の正室になったのは、今川義元の姪の築山殿(つきやまどの)でした。築山殿は、息子・信康の妻・徳姫との嫁姑関係が最悪で、徳姫が父・織田信長に築山殿の悪口を書き送ったため、信長の命令で殺されてしまいます。次の正室は、豊臣秀吉の妹、朝日殿(あさひどの)で当時44歳でしたが、これも政略結婚でした。

 一方、側室にどのくらいの成熟度を求めていたかというと、基本的に子どもを産んだことがあって離婚経験がある女性です。徳川家の子孫繁栄のためには、とにかく子どもを生んでもらえることを重視したんですね。

 ところが、天下人になって、子どもはもういいかなとなった頃から、一転して10代の女性を好むようになります。このとき家康は60代。年の差が突き抜けてますよね。

『やばい日本史』では、「タヌキおやじ」と言われた家康がずる賢くじゃま者を次々に消し去ったおかげで、江戸時代が平和になったと書きました。

 その功績の偉大さに疑いはないですが、武田信玄との戦いで1000人以上の死傷者を出し、あまりの恐怖心から逃げる途中でうんこをもらしたときは、「これはクソではない。腰に付けてた非常食のミソじゃ!」とごまかそうとした逸話もあります。そのくらい「やばさ」も突き抜けていたわけです。

 家康ほどわかりやすい武将はいませんけど、いろんな意味で突き抜けているという意味では、人気があるのも当然かもしれません。

第1位 織田信長
日本史上もっとも残虐な男

 現代の日本史では、織田信長が戦国時代の一番のヒーローみたいなイメージが強いですけど、江戸時代から明治時代にかけては、秀吉のほうが信長より人気があったんです。

 それはやっぱり、秀吉の出世物語がすごいから。『やばい日本史』にも書いたように、秀吉は正確な身分がわからないほど貧しい生まれで、母親の再婚相手にいじめられて13歳で家を飛び出します。しかし、冬の寒い日に自分の懐で暖めた草履を織田信長に差し出したことで、信長に気に入られてからどんどんのし上がっていきました。そういう話が、今の時代にはそぐわなくなってきたんでしょうね。

 逆に信長は、人に付け入るどころか究極のワンマン大名で、せっかちで怒りっぽい一方、めちゃくちゃ頭がキレる人でした。戦国時代を終わらせて世の中を変えた人でもありますから、そういう面で人気が高まっているのかもしれません。

 ただ、信長は子どもの頃から「うつけ(バカ)」呼ばわりされて「傾奇者(かぶきもの)」とも言われていて、目立つ格好で町中をだらだら徘徊していたヤンキーです。父親の葬式では位牌にお香を投げつけましたから。

 延暦寺を焼き討ちにして、女子どもを含めて何千人も殺害したときは、武田信玄からあまりにも残虐だと手紙がきたんです。でも、信長は返事に「第六天魔王 信長」というイタいサインを書いて出しました。「第六天魔王」は仏教の敵の悪魔ですから、それを自分で名乗っちゃうなんてよっぽど変な人ですよ。要するに、自分には仏も何も怖いものはないから、反省するわけねーだろ! と言っているので、完全な中二病です。昔のヤンキー言葉で言うと「夜露死苦」みたいなもので、ヤンキー魂が炸裂しているようなものです。

 他にも信長は、長島一向一揆で2万人、越前一向一揆で1万2000人の民百姓を殺しています。日本史のなかで、そこまで多くの人を虐殺したのは信長だけですが、それでも人気が落ちないところが信長のすごいところですよね。

武将の「やばい」は尽きない

 戦国武将のネタは、まだまだあります。上杉謙信や武田信玄にも、意外な一面があるんですよ。

『マンガでよくわかる ねこねこ日本史 ジュニア版』(実業之日本社)とコラボした動画で紹介しているので、ぜひこちらもご覧になってみてください。

『ねこねこ日本史』は、歴史の偉人が全員「ねこ」のキャラクターで登場するマンガです。かわいいからと侮るなかれ。「読みやすい、かわいい、だが本格派」な内容で、日本史が楽しく学べます。

『やばい日本史』『ねこねこ日本史』などをきっかけに、ぜひ日本史の世界をのぞいてみてください。