「上司に気に入られている人の評価が、予想以上に高かった」なんてことはよく聞く話だ。「あの上司、人の好き嫌いで評価しているんじゃないか?」といぶかしく思った経験がある人も多いのではないだろうか? その場合、あなたの疑念は当たっている可能性が高い。なぜなら、人は自分が個人的に好きなものは常に高く評価する傾向にあるからだ。「仕事の評価を好き嫌いで判断するなんて許されない!」と憤るかもしれないが、悲しいかな、それが現実である。それを指摘するのが、伝説のブログ「分裂勘違い君劇場」の著者・ふろむだ氏が書いた『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』だ。なぜ、そのような理不尽なことがまかり通っているのか。本記事では、その理由についてご紹介する。(構成:神代裕子)
世の中は「人の好き嫌い」で動いている
「この世は実力主義。だから、人から好かれているかどうかは関係ない」と考えている人もいるだろう。
能力が高ければ評価されるし、低ければ評価されない。そう信じたいところだが、意外と世の中そんなふうになっていない。
なぜなら、「あの人はいい人だ」と周囲に好かれている人は、なぜか「仕事もできる」と評価にゲタをはかされていることが多いからだ。
しかし、それを指摘すると、こちらが批判されそうだから黙っている。そんな理不尽な思いをしている人も少なくないはずだ。
なぜ、そんなことが起こるのか?
その理由を説明する前に、本書で紹介されている「人の判断の仕方に関する実験」について説明しよう。
メリットやリスクも左右する「好き嫌い」
心理学者が、被験者に次のような技術について、「個人的な好き嫌い」を答えてもらう実験を行った。
・水道水へのフッ素添加
・化学プラント
・食品防腐剤
・自動車
次に、それぞれのメリットとリスクを書き出してもらうと、「個人的な好み」と「メリットの大きさ」はあり得ないほど高い相関関係を示したのだという。
さらに、「個人的に好ましい」ものは、「リスクは小さい」と感じ、「リスクが小さい」と思うものは、「メリットが大きい」という結果が出た。
これは、毒物のリスク評価の専門家である英国毒物学会の会員まで、同様の回答をしたというのだから驚きだ。信じがたいが、人間の思考はそのようになっているのだろう。
さらに、第二段階では、被験者は2つのグループに分けられ、第一グループはそれぞれの「技術のメリットを強調するメッセージ」を、第二グループはそれぞれの「技術のリスクの低さを強調するメッセージ」を聞かされた。
すると、これらのメッセージにより、それぞれの技術に対する好感度は劇的に変わってしまったのだという。
メリットを強調するメッセージを聞いた被験者は、リスク評価まで低く変えてしまったし、リスクの低さを強調するメッセージを聞いた被験者は、メリットの評価まで高く変えてしまったのだ。
なんともいい加減な話である。
無自覚に判断する「感情ヒューリスティック」
このような人間の判断方法を「感情ヒューリスティック」と呼ぶのだそうだが、恐ろしいのが、「そういう感情的な判断の仕方は間違っているからやめるべきだ」といくら主張しても、不毛だということだ。
なぜなら、「ほとんどの人間は、自分が感情ヒューリスティックで判断していることを、自覚できないからだ」とふろむだ氏は指摘する。
あなたや周りの評価が、上司の感情ヒューリスティックによって左右されていると感じていたとしても、何もできないというのは実に腹立たしいと思う。
しかし、ふろむだ氏はこう語る。「むしろ、感情ヒューリスティックをうまく活用して、積極的に錯覚資産を作っていくほうが、はるかに現実的なのだ」と。
本書では、「自分の得になるような、他人の勘違い」のことを「錯覚資産」と呼んでいる。
この「錯覚資産」が多ければ多いほど、周囲の人から実力以上に評価され、いい環境が与えられるようになる。
たとえそれが錯覚であったとしても、高く評価されれば作品には高い値段がつくし、会社であれば人事評価の結果は高くなり、給与やボーナスにも反映される。
つまり、「感情ヒューリスティック」によって、実際に手に入る金額までもが大きく左右されることになる。
そう考えると、確かに「感情ヒューリスティック」をうまく活用しないのはもったいないことかもしれない。
実力の有無よりも、好き嫌いが影響する現実
「世の中は実力主義だ」と、技術や能力に磨きをかけるのもいい。
でも、それ以上に「人から好かれる」ということは大きな価値を生む、ということを私たちは理解しておかなければならない。
なぜなら、嫌われてしまうと、それまでの努力や高い技術も「たいしたことない」と評価されてしまうからだ。
実力主義の人ほど、「そんな世の中、つまらない」と思うかもしれない。
しかし、せっかく実力があっても上司や周囲に嫌われることによって足を引っ張られてしまうのは、あなたにとって大きな損失だ。
この世を上手に渡っていくためには、その人の「好き嫌い」も活用していくほうがいいと、この本は教えてくれているのだ。