個人も組織も、学ぶことは大切ですが、もはや、それだけで十分ではありません。ビジネスでも、スポーツでも、同じスキルや戦略が、そういつまでも通用はしません。常に何かを学びなおさなければいけない時代になっています。その時代のキーワードこそ、アンラーンです。学びなおす力であるアンラーンを妨げるのは、過去に達成するのに役立ったが今では限界に達している行動や方法、つまり「成功体験」だったりします。セリーナ・ウィリアムズからディズニー、アマゾン、テスラ、グーグル、NASA…事例満載でアンラーンの全貌がはじめてつかめる本、『アンラーン戦略 「過去の成功」を手放すことでありえないほどの力を引き出す』(バリー・オライリー著、ダイヤモンド社刊)から、アンラーン戦略の重要ポイントを紹介していきます。(監訳:中竹竜二、訳:山内あゆ子)

ローマPhoto: Adobe Stock

モンテスキューが指摘したローマ人のアンラーンする能力

 アンラーンについてスポーツやビジネスの文脈で考えてきたが、これはわれわれの人生に、そして人類の歴史に深く染み込んだものだ。それも、おそらくは気づきもしないうちに。

 2000年ほど前、ローマ帝国は西欧世界を支配していた。その最盛期、帝国の領土は首都ローマ(当時は世界一の大都市)から、北は現在のイギリス、南は北アフリカ、東はヨーロッパのほとんどと中東にまで及んだ。その面積は190万平方マイル以上で、世界の全人口のほぼ20%を占めた。約500年間にわたって、ローマ帝国は軍事、経済、文化において地上最大の力を持っていた。

 何世紀ものあいだ学者たちは、どうしてローマ帝国がこれほどまでに圧倒的な成功を収めたのか、思いを巡らせてきた。誰か先見の明のある指導者がいたのか? テベレ川沿岸という絶好の立地のおかげか? 歴史上の出来事が偶然うまく重なったのか? おそらくそのどれでもない。

 1734年、フランス人政治哲学者のシャルル=ルイ・ド・モンテスキューは、ローマ帝国の成功は、一つには過去に成功をもたらしたことをアンラーンすることによって、環境の中での新しい状況に適応するという、独特の能力があったことに由来すると説明した。

「古代ローマ人が繁栄を遂げた主たる理由は、あらゆる人々と連戦を続けるなかで、過去の戦で成功した方法にこだわることなく、より優れた戦法があればすぐにそちらを採用したことにある」

 このように、アンラーンという方法は昔からあり、アンラーンによって達成できる利益についてもよく知られていた。1980年代、90年代には、アンラーンというテーマについての科学的研究も大いに行われた。皮肉なことに、われわれはそのことを脱学習してしまったようだ!