情報が次から次へと溢れてくる時代。だからこそ、普遍的メッセージが紡がれた「定番書」の価値は増しているのではないだろうか。そこで、本連載「定番読書」では、刊行から年月が経っても今なお売れ続け、ロングセラーとして読み継がれている書籍について、著者へのインタビューとともにご紹介していきたい。
第5回は2011年に刊行、ビジネス文書が見違えるようになる教科書としてロングセラーを続けている山崎康司氏の『入門 考える技術・書く技術――日本人のロジカルシンキング実践法』。4話に分けてお届けする。(取材・文/上阪徹)

「書くのが苦手な人」が無自覚にやっている2大NGな書き方Photo: Adobe Stock

文章が下手な人ほど「誤解」していること

 この連載を書いている私は文章を書く仕事をしているのだが、ちょっと珍しいタイプのライターかもしれない。というのも、そもそも書くことが好きだったわけでも、書きたいことがあってライターになったわけでもないからだ。

「書くのが苦手な人」が無自覚にやっている2大NGな書き方山崎康司(やまさき・こうじ)
隗コンサルティングオフィス株式会社代表。豊富な経営コンサルティング経験をもとに、様々な大企業にて『考える技術・書く技術』関連の教育・研修を実施している。著書に『入門 考える技術・書く技術』『オブジェクティブ&ゴール』『P&Gに見るECR革命』、訳書に『考える技術・書く技術』『不合理のマネジメント』『仕事ストレスで伸びる人の心理学』『正しいこと』など。ペンシルベニア大学ウォートン・スクール卒業(MBA)、東京大学建築学科卒業。福岡県出身。
http://kai-consulting.jp/

 私にとって「書くこと」は、求められる目的を達成するためのビジネスのツールに過ぎない。うまい文章など、まったく興味がない。何より大事なことは、伝えるべき内容をしっかりと読者に伝えるという目的。私は「どうすれば文章が書けるのか」をテーマにした本もたくさん書いているが、そのことを何より強調してきた。

 つまりは、「何を書くか」、こそが重要なのだ。ところが、多くの人が目を向けてしまいがちなのが、「どう書くか」なのである。とりわけビジネス文書では、「何を書くか」を整えていくことが重要になる。『入門 考える技術・書く技術』は、まさにここから話が始まる。著者の山崎康司氏はこう語る。

「ビジネス文書の99%は、自分の考えを伝えるものなんです。ここで最も大事なことは、考えなんですよ。ビジネス文書はプロセスが2つに分かれていて、考えを明確にすること、そしてそれを文章にすることです。ところが、考えを組み立てるプロセスを乱暴にやったり、端折ってしまう人が多い。だから、うまく書けないんです」

 しかし、これには理由がある。日本人は、こうした文章の書き方を教わっていないのだ。冒頭で山崎氏はこう書いている。

 日本の教育においてライティングを勉強する機会がなかったということは、とりもなおさず、小中学校の国語の時間に習ったことが私たちの頭の中にこびりついていることを意味します。

 日本人の多くが、ビジネスで通用する文章というものを、誤解してしまっている現実があるのだ。

自分が書きたいことを書いてはいけない

 山崎氏が、典型的な誤解として本書で紹介しているものが2つある。まずは、自分が書きたいことを書いてしまう、ということだ。読み手が意識されていないのである。

「日本の教育では、小学校、中学、高校とライティングのトレーニングはあるわけですが、振り返ってみると、自分の思ったことを文章で表現しなさい、感想を書きなさい、というものばかりなんです。小学校から大学に至るまで、日本では読み手を意識しないで自分勝手なライティングをやっているんです」

 ところが、社会に出て会社に入るとそうはいかなくなる。ビジネスにおいては、読み手のいないライティングなどというものはないからだ。必ず読み手を意識したものにしなければいけないのである。本書では山崎氏は、こう書いている。

 ビジネス文書では、何について書くのかを決めるのは、あなたではありません。それは読み手です。あなたは読み手の知りたいことを、読み手の関心に向かって書くのです。読み手は忙しいのですから、自分に関係のないあなたの関心事や思いつきに付き合っている暇はありません。

 学校で習った作文や感想文では、読み手を意識することはなかった。中学や高校の国語の試験でも、書き手の意図を答えさせる問題ばかりが登場する。つまり、かつて学んだ文章でビジネス・ライティングをしようとすれば、うまくいくはずがないのである。

 そして実は「文章が書けない」という人は、「読み手を見ない」という呪縛に陥っているケースが多い。だから何を書いていいのか、わからないのだ。

 しかし、読み手を意識すれば、何を書けばいいのかが見えてくる。読み手が欲しい情報を書けばいいからである。

結論の遅い「起承転結」は、ビジネスにはそぐわない

 そして典型的な誤解、もう一つが文章は起承転結で書く、というもの。だから、結論を先に書けない。

「起承転結で書けと教わるわけですが、実は起承転結とは何か、を教える教師はいないんです。起承転結は、中国の漢詩の絶句形式、五言絶句、七言絶句のストーリーラインのことです。つまりは、物語ライティングなんです。考えを伝えるライティングとは、まったく別の世界のものなんです」

 そして起承転結では、結論は最後に書かれる。だから、なかなか結論が出てこない。しかし、ビジネス文書では、結論は冒頭に書くのが原則だと山崎氏はいう。読み手は、いち早くあなたの考えを知りたいからだ。

「しかも日本人は協調性を尊ぶ文化で育っている。そうすると、それこそ結論は書かないほうが良かったりするわけです。そうすれば、ケンカも少なくなる。でも、欧米のコミュニケーションというのは、自分の考えをまず結論から伝えて、違いを明確にした上でディスカッションが始まるんです」

 2つの誤解をクリアするだけでも、ビジネス文書は大きく変わるという。そして本書では、さらにレベルを上げていくための具体的な手法が描かれていく。
(次回に続く)

(本記事は、『入門 考える技術・書く技術――日本人のロジカルシンキング実践法』の著者にインタビューしてまとめた書き下ろし記事です)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

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