情報が次から次へと溢れてくる時代。だからこそ、普遍的メッセージが紡がれた「定番書」の価値は増しているのではないだろうか。そこで、本連載「定番読書」では、刊行から年月が経っても今なお売れ続け、ロングセラーとして読み継がれている書籍について、著者へのインタビューとともにご紹介していきたい。
第5回は2011年に刊行、ビジネス文書が見違えるようになる教科書としてロングセラーを続けている山崎康司氏の『入門 考える技術・書く技術――日本人のロジカルシンキング実践法』。4話に分けてお届けする。(取材・文/上阪徹)

【目からウロコ】「思わず読んでしまう文章」に共通する4大鉄則Photo: Adobe Stock

「ビジネス文書」4つの鉄則とは?

 ビジネス文書を作成するときには、絶対に作ったほうがいいピラミッド構造。この構造がそのまま文書構造になるわけだが、文章にするときにも注意点があるという。『入門 考える技術・書く技術』では、4つの鉄則を山崎氏は掲げている。

鉄則①名詞表現、体言止めは使用禁止とする

 述語を明確にすることが重要。例えば、カッコいいからと「市場の変化」と体言止めにしてしまったりする。しかし、「市場がこんなふうに変化している」と書かないと、中身が明確に書き表せない。

鉄則②「あいまい言葉」は使用禁止とする

 10人が一つの言葉を読んだり聞いたりしたとき、同じ意味として受け止めるかどうか。例えば、「営業組織の見直しの提案」では、10人が違うイメージを持ってしまう。「東京・大阪など大都市圏での営業人員の増大」まで書かないといけない。

鉄則③メッセージはただ1つの文章で表現する

 一つのパラグラフには、一つのメッセージだけを入れる。これをやらないと、ピラミッドにならなくなってしまう。そのための一つの方法が、「and」を使わないことだ。

鉄則④「しりてが」接続詞は使用禁止とする

「何々し」「何々であり」「何々して」「何々だが」といった論理的な関係が明快でない接続詞を、ひっくるめて「しりてが」接続詞と称している。メッセージを伝える文章、考えを組み立てたりする作業においては、使わないほうがいい。

「ピラミッド構造」を上手に作るコツ

 ピラミッド構造を作るにあたり、パソコンを使う人もいれば、紙に書く人もいるというが、山崎氏はA3の用紙を活用しているという。

【目からウロコ】「思わず読んでしまう文章」に共通する4大鉄則山崎康司(やまさき・こうじ)
隗コンサルティングオフィス株式会社代表
豊富な経営コンサルティング経験をもとに、様々な大企業にて『考える技術・書く技術』関連の教育・研修を実施している。著書に『入門 考える技術・書く技術』『オブジェクティブ&ゴール』『P&Gに見るECR革命』、訳書に『考える技術・書く技術』『不合理のマネジメント』『仕事ストレスで伸びる人の心理学』『正しいこと』など。ペンシルベニア大学ウォートン・スクール卒業(MBA)、東京大学建築学科卒業。福岡県出身。
http://kai-consulting.jp/

「自分の考えをどんどん書いて、発展性を持たせていくわけですが、A4の紙だと小さ過ぎるんです。小さいと、紙の大きさに考えの枠がはまってしまう。だから、必ずA3用紙を使って、横にして書き出すようにしています」

 ある程度、まとまったら、最終チェックをするために大きめのポストイットに書き出す。それを貼って、ピラミッド構造を調整していく。そして、この構造が、そのままビジネス文書になるのだ。

 本書では、ある会社の「事業投資についての分析」を例に、それがどんなビジネス文書になっていくのかが紹介されている。「投資を検討すべき。その根拠は3つ」という主メッセージから、「3つの根拠」にそれぞれ2つずつの内訳がつき、ピラミッド構造をベースに、ロジカルで見やすいビジネス文書に変わっていくことが見てとれる。

「文章表現は、最終章の第4章で紹介していますが、そもそも皆さん共通の問題は、基本的に文章が長いことなんです。それに尽きる」

 メッセージを伝えるライティングでは、文章が長くなるとメッセージを伝えにくくなる。だから、短く書く。なるべく単文で書く。それを強く意識することだと山崎氏は語る。

「この本は読みやすいという評価をいただいているんですが、その最大の要因は、メッセージを伝える文章は、なるべく単文で書いていることです。複文は2つまでに限定している。3つはつながない。これが、この本の読みやすさの原点なんです」

 もちろん、山崎氏が書いているような優れたビジネス文書が簡単にすぐ作れるわけではない。

「本当のことを言いますが、1回読んだだけではできないですよ。3回くらいは読んでほしい。でも、そのたびごとに新しい発見があると思います」

メールが見違える秘策「感謝の言葉にPDF」

 本書の終章には「メール劇的向上術」がついている。その意図について、章の冒頭にこう書かれている。

 今やメールはビジネスの必需品です。否が応でも毎日書くものですから、これをライティングの練習に使わない手はありません。

 そしてインタビューでは、山崎氏はこう語っていた。

「必需品なのに、みんな自分がどれだけひどいメールを書いているか、意識していないんです」

 メールの最大のポイントは、「簡潔にわかりやすく」と書かれているが、見違えるように向上する秘策が紹介されている。それが「感謝の言葉にPDF」という合言葉だ。

感謝の言葉(まずは感謝の言葉を述べる)
P(主メッセージ部分)Purpose Statement 目的文
D(詳細)Detail 主メッセージの理由や判断根拠、内容説明、具体案など
F(今後のアクション)Follow-Through 結び

 具体的な事例として「部下の昇進」「取引先の経営見通し」が紹介されている。実際に「感謝の言葉にPDF」を学んだ人からは、「上司からメールを褒められました」と報告を受けたことが何度もあるという。

ピラミッド原則が身につくメール例「感謝の言葉にPDF」のメール例。『入門 考える技術・書く技術』より
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「メールの練習は、結論を最初に書く練習もなるし、ピラミッド構造を作る練習にもつながっていく。普段の場で練習できるわけですから、いい機会なんです」

 書けない、という人は、書けない理由に気づける。また、もっとうまく書きたい、という人は、なるほどという方法が紹介されている。事例も豊富で、とにかく実践的。ビジネス文書を正しく書くための画期的な1冊だ。

(本記事は、『入門 考える技術・書く技術――日本人のロジカルシンキング実践法』の著者にインタビューしてまとめた書き下ろし記事です)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

【大好評連載】

第1回 「書くのが苦手な人」が無自覚にやっている2大NGな書き方
第2回 【メールでバレる】優秀でも「ないと出世できない」超重要スキルとは?
第3回 【世界中のコンサル会社で使用】「どう書くか?」を一発で解決するライティングの基本型