「勝ち点を挙げれば優勝」の相手を
負かした早稲田の気迫

 小宮山が監督に就任した2019年、その秋のことだった。このときは早慶戦の前に慶応の優勝が決まっていた。だが、リーグの掉尾(とうび)を飾る伝統の一戦。連綿たる早慶戦の歴史を部員たちも熟知している。ところが、練習後の円陣で鼻をすする4年生がいた。

「そんな態度では慶応に失礼だろう。試合へ向かう緊張感が高まっていれば、風邪なんてひかない」

 小宮山は気を落としそうになったのだった。

 どれだけ一枚岩になれるか。チームスポーツの要諦ではないだろうか。

 2022年秋の早慶戦、勝ち点を挙げれば優勝という相手を負かすのは、容易なことではない。今季の早稲田はそれをやってのけたのである。

 試合後、小宮山監督は早稲田スポーツ新聞会のインタビューにこう答えている。

「中川主将のチームの集大成ということで目指すところにたどり着けるかどうかという、そういうつもりで臨んだ2試合です。結果、ところどころ不満な点はありますが連勝できたということで、及第点を与えたいと思います」(11月7日付)

 再び、米長永世棋聖の名言を引いて拙稿を締めくくる。

「棋士は、将棋に命を懸けている。だから盤上には神が宿っている」

 野球の試合も、時に人智を超えるような劇的な展開となり、観客は酔いしれるのだろう。(敬称略)

小宮山悟(こみやま・さとる)
1965年千葉県生まれ。早大4年時には79代主将。90年ドラフト1位でロッテ入団。横浜を経て02年にはニューヨーク・メッツでプレーし、千葉ロッテに復帰して09年引退。野球評論家として活躍する一方で12年より3年間、早大特別コーチを務める。2019年、早大第20代監督就任。