ビジネスで結果を出す人は、自分なりの「妄想」を手なづけ、圧倒的なインパクトを生み出している──。そのための具体的手法を解説した本『直感と論理をつなぐ思考法』が、各界のトップランナーたちから絶賛されているという。つねにロジックや正論に偏りがちな世の中に違和感がある人には、ぜひとも読んでほしい一冊だ。同書の本文より一部を抜粋してお届けする。
デザインとは「概念を壊してつくり直すこと」
経済学者ヨーゼフ・シュンペーターによれば、経済成長をドライブさせるイノベーションの本質は、アントレプレナー(起業家)による「新結合」にある。つまり、まったく新しい何かを創出するのではなく、すでにある要素を「組み替える」ことによってこそ、停滞している経済をブレークスルーできるというわけだ。
このようなイノベーション観は、マクロ経済や企業経営のみならず、あらゆる型のビジョン思考に当てはまる。
妄想の「切り口を変える」というのは、まったく別の独創的なアイデアをつけ加えることではない。そこに新奇性を生むうえで肝要なのは、その妄想が持っている要素に「組替」を与え、「新結合」を起こすことなのだ。
こうした組替のプロセスは、デザイン思考の元祖である「デザイン」の世界において重要な位置を占めている。
そもそも「デザイン(design)」という言葉は、ラテン語のdesignareを語源としているが、これは「分離すること、はっきりさせること」を意味する接頭辞(de-)と「印・記号」(signum)から成り立っている。ここからもわかるとおり、行為としてのデザインには、対象を構成要素に分解したうえで、再び組み立て直すというニュアンスがある。デザインとは組替そのものだと言ってもいい。
組替 = 分解 + 再構築
その際、対象を構成する要素が渾然一体となったままでは、組替は行えない。
自分の内側から塊のまま出てきた妄想を、できる限り細かく「分解」し、全体がどんなパーツから成り立っているのかを把握して初めて、それらを組み替えることができる。また、構成要素を見渡すことで、自分が暗黙のうちに受け入れている枠組み(フレーミング)が見えてくることもある。
とはいえ、パーツにバラしたまま放っておくわけにもいかない。組替には必ず「再構築」のステップがある。このとき、元どおりに組み立ててしまっては意味がないから、もともとあった姿とは別のかたちに組み直す工夫が必要になる。
この2つのステップを踏むことによって、個人レベルの着想(=妄想)には客観性が付与され、より「アイデアらしく」することができる。
一人の妄想を起点にする思考においても、それが単なる独りよがりや思い込みで終わらないためには、この組替のプロセスを避けて通るわけにはいかないのである。
(本記事は佐宗邦威『直感と論理をつなぐ思考法』の本文を編集・再構成したものです)