マネックス 仮想通貨敗戦#1Photo:JIJI

日本の仮想通貨業界を震撼させた「NEM流出事件」から5年――。松本大氏率いるマネックスグループ傘下で再建を果たしたかに見えた仮想通貨交換業大手コインチェックの、衝撃的な実態が明らかになった。マネーロンダリング対策の不備や個人情報のずさんな管理、社員による情報漏えいや法令違反などの不祥事が多発。特集『マネックス 仮想通貨敗戦』(全5回)の#1では、内部告発を基に、マネックスが主導する「企業再生」の機能不全を暴く。(フリーライター 村上 力)

買収からわずか5年で企業価値100倍に
華々しい再生ストーリーに隠された「暗部」

 日本の仮想通貨業界に衝撃を与えた「NEM流出事件」から5年。仮想通貨取引所コインチェックは、マネックスグループ傘下で華々しい復活を遂げた。

 コインチェックは2018年4月、マネックスに36億円で買収され、マネックス社長CEO(最高経営責任者)の松本大氏が取締役会長に、松本氏の東京大学法学部の後輩で当時マネックス常務だった勝屋敏彦氏が社長に就任し、経営体制が刷新された。金融庁は19年1月、コインチェックの体制が整ったとして、仮想通貨交換業者としての登録を許した。

 その後、コインチェックの社長は東大法学部卒でマネックスCFO(最高財務責任者)だった蓮尾聡氏に引き継がれた。今マネックスの収益の大半は、コインチェックが稼ぎ出している。

 マネックスは昨年、コインチェックの企業価値を買収時の100倍に上る3400億円と公表。今年3月には、米ナスダック市場に2000億円超で年内に上場する計画を公表した。わずか5年で50倍とも100倍ともいえるバリューアップを果たしたのであった。

 だがこのでき過ぎた企業再生ストーリーには、重大な「暗部」が隠されていた。高収益の裏で、金融庁が期待した社内体制の健全化はなおざりにされていたのだ。

 コインチェック内部で法令違反や社内の情報漏洩など、重大な不祥事がこの1年間で10件近く発生していることが取材で分かった。さらにシステム不具合や誤作動などは、2年間で50件近くに上る。

 コインチェックの社内状況はNEM流出事件前と変わらないか、むしろ悪化している恐れがあるのだ。次ページから、その驚くべき内部実態を明らかにしていく。