くだんの女性が引っ越したという鶴崗市は、もともと石炭資源が抱負な黒竜江省の中でも「四大炭鉱の街」に数えられている都市だった。1985年にはその産出量が1543万トンに達し、全国第4の炭鉱の街にもなった。

 その利便性を生かそうと、中国建国直後には周辺地区に重化学工業の工場が設置され、全国各地から多くの労働者とその家族たちが呼び集められた。そんな国有工場も1990年代末には赤字化した工場を中心に強制閉鎖が進められ、黒竜江省もその影響を大きく受けた。それでも「煤城」鶴崗の勢いは2010年頃まで続き、当時の不動産価格は1平米5000元ほどだったという。

 だが、2011年に国が鶴崗市を「資源枯渇都市」に指定、さらに積極的な大気汚染改善政策や新エネルギーへの転換政策の推進により2013年頃には石炭価格も低迷し、鶴崗市はその優位を失った。この10年間の統計では人口は15%も減少して90万人を切り、「卒業期には新卒者が次々と街を出ていく」という「純人口流出」地区となった。その結果、2021年末には同市の財政は23億元(約450億円)の収入を大きく上回る113.8億元(約2200億円)の赤字を計上し、中国で初めて事実上の財政破綻を宣言した都市として大きく報道された。

財政破綻した元・炭鉱の街が
力を入れる「観光業」

 そんな鶴崗市が、2021~25年の「第14次5カ年経済計画」において進めている経済政策の一つが観光業の振興だ。

 同市内には3つの国立公園があり、面積の43%余りが自然に覆われ、バードウオッチングや湿地帯などを楽しむには最適だというのがうたい文句になっている。さらにロシアと国境を接していることから、その異国情緒も観光資源の一つである。

 実際に観光収入はここ5年間伸び続けており、市のGDP8%に達している。新型コロナ騒ぎが一息ついた2021年には、同地を訪れた観光客の数は延べ320万人と同期比140%に増え、観光収入も114%増の30億元(約600億円)になった。

 この旅行人気が、再び人々の視線をこの炭鉱の街に引きつけた。旅行予約サイトには、「市内には5つ星ホテルが一つしかないが、1泊わずか300元(約6000円)台。こんなに安くトップクラスのサービスを受けられるところは他にはない」といった驚きの声が並ぶ。また、「大型連休に人の波に押しつ押されつして時間をかけて順番待ちして、高い費用を払わされて疲れ切って帰宅するのではなく、鶴崗での休日こそ究極のリラクゼーションだ」というコメントも見受けられる。

 こうして現地を訪れたことのある人たちの中からぽつりぽつりと、この街の物価の安さに注目する人が現れた。また3年前に一度話題になった「鶴崗に5万元で家を買った」というネットの書き込みも掘り起こされて、コロナ政策に疲れ切った都会人の間で移住を考える人が出始めたようだ。3年前の書き込み主は外国船の船乗りだった。出身地の浙江省ではローンで自宅を買っても、半年間自宅を留守にする身にとって高すぎるため、思い切って鶴崗で「快適に暮らすことを選んだ」というものだった。勤務を終えて船を降りると、そのまま直近の佳木斯(ジャムス)空港に飛び、そこから鉄道で約2時間かけて「自宅に帰る」のだと述べている。