産業のない「元炭鉱の街」を、
若者はデジタルで復興できるのか

 だが、現実問題として、財政破綻した街で家を買って引っ越した後、どうやって暮らしていくのだろう?。前掲のドキュメンタリーにも描かれているように、鶴崗は街としてそれなりの規模ではあるが、これといった産業がまだない。外からの移住者が現地で満足な職を得るのは容易ではないはずだ。

 きっかけになった書き込みをした女性の職業は画家だった。そして引っ越してくる人たちは今はやりのネットショップオーナーやライブコマース運営者といった、一見住む場所を選ばないタイプの仕事で収入を得ている人たちだという。そして共通するのが若い世代だということ。

 一方、大都市でそれなりの収入を得て暮らす中年経済アナリストたちがこの現象を分析する記事を読むと、その多くがこの鶴崗ブームに警鐘を鳴らしている。「彼らはゴミゴミした都会を離れて、安く家が買えた、地方暮らしは最高だと満足しているようだが、彼らのコマースビジネスの顧客は多くが都会在住者だ。つまり、彼らは都会型ビジネスから逃れられないのである。そんな彼らの移住が、地方都市にとって朗報となるのだろうか?そして彼らの未来を本当の意味で自由にしてくれるのだろうか?」実際に先の動画の中で露天商をしていた若い夫婦は夢破れ、すでに鶴崗を離れたという報道も目にした。広東省出身の仲介業者は「ここは長く住める場所ではないはずだ」と言い、だからこそ彼は投資対象となる民泊用物件の仲介をしていると語っている。

 鶴崗に移住する人の数は、まだまだその流出を補うほどには至っていない。市内には住む人もおらず80%の家が空っぽになっている団地もあるという。街には1軒3万元(約60万円)、5万元といった、驚異的に安い中古団地売却の張り紙が続く。

 これまでの制度や習慣への信頼を完全に破壊したといわれるコロナ政策を経て、本当に若者たちの中から都会を捨てて生きようとする人たちが出現しているのだろうか。そしてそこから鶴崗のような「忘れられた街」を、デジタルの力で再興させることもあり得るのだろうか。

 未来はまだまだ見えないが、この移住ブームはなかなか興味深い可能性を秘めているような気がする。