例えば、女性が働くということは当たり前になっていて、夫婦2人の世帯で考えると家系的にはプラスの状況になっているんですよね。パート・アルバイトの時給も近年上がっていますし、そういった意味でいい面もあるということはお伝えしておきたいです。

「老後は絶望」を覆す新事実、定年後も働く人は現役より満足度が高かったリクルートワークス研究所研究員・アナリストの坂本貴志さん

 現在60代後半以上の方々は「女性は(会社員などとして)働かない」というのが当たり前でした。ただ、やはり女性が働かないと老後は大変なんですよ。男性一人で稼ぎ続けるのは大変です。定年後も、(社会保障で賄いきれない分は)ある程度稼がなければいけないのですが、女性も男性も働くと個々の負担が全然違います。

「キャリアアップの限界」は誰しも訪れる

――定年前まではデスクワークをしていた人の多くが、定年後はオフィスワークではなく現場に出てするような仕事、例えばコンビニ店員や警備員・管理人などの日常生活を支える仕事などに携わります。オフィスワークをしていた人が急に「現場仕事」をするには、モチベーションを維持・転換するのが難しそうだと私は感じました。年を取れば誰でも変化できるんでしょうか?

 まず私は書籍の中で、いわゆる現場仕事も含め「小さな仕事」と言っています。例えば学生時代には主にアルバイトなどで「小さな仕事」に従事していた人が多いのではないかと思います。そこから、就職してオフィスワーク中心になっていく。定年を迎えると、また「小さな仕事」に移行していくという大きなキャリアの流れがあると思っています。

 それで、学生時代の「小さな仕事」はつまらなかったのかというと、そんなことはないと思うんです。小さな仕事でも、人に「ありがとう」と言われるようなこと、人に役立つようなことに楽しみを見いだしていた人がたくさんいると思います。そういった意味で、やりがいのある仕事はたくさんある。

 しかし、就職して社会人になって組織で働くようになり、その中でも重要な役割を担ったりすると、「小さな仕事」をしていたときの気持ちを忘れてしまう…ということがあります。

 賃金が上がったり、責任ある大きな仕事を任されたりすることに意欲を持って、上昇志向で働くことはもちろんいいことです。ただ、上り坂一辺倒のキャリアだと、それができなくなったタイミングが来たときに悩むことになる。そのときに、自分の仕事に対する価値観を転換できるかどうかが大きなポイントです。

――中高年になってもスキルアップして、高いキャリアと収入を得られるように努力しなくてはいけないという風潮はここ最近、強まっているように感じます。

 そういうイメージしか描けない人が多いですよね。ですが、それだと40代、50代で能力に限界を感じて、下り坂のキャリアになっていったときに葛藤が生じやすいと思うんです。上り調子のキャリアを続けられるときはそれでいいのですが、できなくなるタイミングっていうのが誰しも訪れます。そのときに「成長しなきゃ、自分が望むキャリアじゃないんだ」という思いを背負って生きていくのは苦しいです。

 だから、人によってタイミングは違いますが、どこかで価値観を切り替えなきゃいけない。誰でもそれには正面から向き合わざるを得ないと思っています。

 目の前にある仕事で人の役に立てることが楽しいとか、体を動かすことがいいとか、そういう考え方に移っていくかもしれないということ。そういう価値観を知っているだけで、未来は少し違うかなと思います。