JR東海とJR東日本が対立するきっかけは国鉄分割民営化にまでさかのぼる。

 国鉄分割民営化前まで、品川には東海道新幹線の車両基地があった。葛西氏はJR東海が車両基地を継続して使うのが当然と考えていた。だが、JR東日本をJRグループの看板会社と位置付け、優良資産を集中するという考え方が政府や国鉄での多数派となった結果、JR東海は車両基地を大井に移転することを迫られ、品川の車両基地だった10ヘクタールの土地は国鉄清算事業団(国鉄から承継した資産を処分し、国鉄の長期債務を償還した組織)に差し出さざるを得なかった。

 車両基地とは別に、在来線品川ヤード23ヘクタールなどもある品川駅周辺の国鉄保有地の中で、JR東海に分け与えられたのは東海道新幹線の線路部分のみという不平等な“相続”が決まったのである。

 JR東海とは対照的に、JR東日本は簿価7.5億円で、時価2.2兆円(1989年試算。葛西氏の著書『国鉄改革の真実 「宮廷革命」と「啓蒙運動」』より)の在来線品川ヤードを取得した。それからかなり後のことになるが、20年には在来線品川ヤードの一部に高輪ゲートウェイ駅を新設し、周辺地域の再開発を行っている。まさに濡れ手で粟だ。

 こうした不条理を葛西氏が受け入れるはずもなかった。新幹線品川駅を計画した際、在来線品川ヤードの一部をJR東日本から簿価(上記の通り時価に比べればただ同然の価格)で譲ってもらうことを画策。元大本営参謀で政財界に大きな影響力を持っていた瀬島龍三氏に根回しした上で、JR東日本の土地を活用した広大な新駅構想をぶち上げた。

 同構想は、葛西氏の独断専行といえるものだった。JR東日本の同意を得ずに一方的に打ち出されたからだ。当然、JR東日本は激しく反発した。JR各社の社長が出席する会議で、分割民営化の取り決めを変更するような事案は、社長会で十分に話し合うことを申し合わせたばかりだった。

 すったもんだの末に、新幹線品川駅は国鉄清算事業団、JR貨物などの一部の土地をJR東海が買収して建設したが、新駅構想にはあった車両基地や留置線(駅などで一時的に車両を止めておくための線路)がなくなるなど、大幅な縮小を余儀なくされた。

 JR東海が品川駅で狭隘な土地に押し込められている実態はいまも続いている。JR東海は新幹線品川駅の開業後、東京本社を八重洲から新幹線駅の上に移した。下を新幹線が走ると音と振動がする東京本社は、お世辞にもオフィスの適地とはいえない。品川駅直結という恵まれた立地だが、線路の上なので土地の形状は細長く、商業施設などには不向きだ。同社は東京本社の他に、単身者向けの社員寮として使うなど土地の有効利用に苦慮してきた。

リニア品川駅でもJR東日本からの
用地提供はなく…

 新幹線品川駅を巡るJR東海の不満は、リニア品川駅の開発でもくすぶり続けている。

 JR東海関係者は「新幹線品川駅の開業による駅利用者の増加で、JR東日本は多大な利益を得てきた。リニア品川駅の最大の受益者もJR東日本だろう。しかし、建設用地などで十分な協力を頂けていない」と憤る。

 実際、リニア品川駅へのJR東日本からの用地における協力はこれまでのところ、建設資材の一時的な置き場やリニア駅の出入り口と在来線駅などとの接続部分といった、ごく一部に限られているとみられる。

 結果として、リニア品川駅は新幹線駅の真下に造ることになった。運行している新幹線の線路の下に巨大な地下空間を造る難工事である。

 しかも、リニア駅の横幅は、新幹線よりも広くする必要がある。

「鉄道よりは航空機に近い乗り物であるリニアでは、危険物を持ち込ませない方策をしっかりやらなければいけない。新駅ではそうした安全対策を検討している」(JR東海幹部)からだ。

 では、セキュリティーチェックなどのためにリニア駅は、どの程度幅を新幹線駅より拡張する必要があのだろうか。そして、その用地は誰が提供するのか。

 ダイヤモンド編集部の取材で、リニア駅は、新幹線駅よりも港南口側(海側)に幅12~13メートル分せり出し、その用地を港区が提供することが分かった。

 横幅は12~13メートルでも、ホームとして使われるので長さはかなりある。港区によれば、リニア駅に提供する地下用地の長さは750メートル(区道地下部分が640メートル、区管理通路地下部分が110メートル)だという。図面上の面積は、面積にして約8500平方メートル。サッカーコートの1.2倍の広さになる。すでにリニア駅の建設工事は進んでいるが、用地に賃借料が発生するかどうかは港区が検討中だという。

 しかし、そもそも新幹線駅を建設する際に、JR東日本が在来線品川ヤードの一部を提供していれば、狭隘な土地にリニア駅を建設したり、区道の地下用地を使ったりする必要性は生じなかっただろう。

 JR東海とJR東日本の対立は、旧国鉄の資産の分割や労働組合への対応を巡って葛西氏と、JR東日本の社長、会長を務めた松田昌士氏が対立したことに端を発している。葛西氏も松田氏も鬼籍に入ったが、両社の確執は簡単には解消しそうにない。

【訂正】記事初出時より以下の通り訂正します。
13段落目:「豊洲」→「八重洲」
(2022年12月23日 10:05 ダイヤモンド編集部)

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