鉄道業界には、JR東海の葛西敬之名誉会長と安倍晋三元首相がけん引した「葛西・安倍案件」と呼ばれるプロジェクトが二つある。3兆円の財政投融資を活用するリニア中央新幹線と、日本が米国に5000億円の融資を申し出た対米リニア輸出だ。特集『迷走 皇帝なきJR東海』(全8回)の#5では、巨額融資を引き出すなど権勢を振るった葛西氏の人脈をひもとく。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
年頭の訓示の背景は社旗ではなく日の丸
保守のドンになった葛西氏の功罪
JR東海を約30年にわたり支配した葛西敬之氏は、2018年に会長を退任して名誉会長になるまで、社内で年頭の訓示を行っていた。
社長時代(04~14年)は、リニア中央新幹線の開業の必要性など高速鉄道についての持論を展開していたが、会長になってからは、経営者というよりも保守の論客そのものの主張を展開するようになったという。
葛西氏の背後に、JR東海の社旗ではなく日の丸が掛かっていたことは、訓示をビデオ中継で視聴していた社員らに強烈なインパクトを与えた。
葛西氏がJR東海の会長を務めた14~18年は、じっこんの間柄にある安倍晋三氏が首相として権勢を振るった時期と重なる。葛西氏にとっても、政界における工作が思い通りの成果を上げる黄金期だった。
次ページでは、リニアへの3兆円の財政投融資の投入や、対米リニア輸出への5000億円の融資などを実現した葛西氏の「政財界人脈」を徹底解明する。