稲盛和夫氏、出井伸之氏、そして凶弾に倒れた安倍晋三氏……。2022年、激動の時代を駆け抜けた各界のリーダーが相次いで不帰の客となった。特集『総予測2023』の本稿では、偉人たちの足跡を後世の“活路”にすべく、「週刊ダイヤモンド」だけに遺した数々の金言を温習する。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
稲盛経営は世間に迎合せず
最優先すべきは組織の「同質性」
京セラ、KDDIを創業し、会社更生法の適用を申請した日本航空(JAL)をわずか2年でV字回復させた稲盛和夫氏。2022年8月に逝去した「経営の神様」がこの世に生を受けたのは、1932年1月21日のことだ。ところが、戸籍上は1月30日出生である。自伝によれば、印刷屋を営む両親があまりに多忙で、出生届の提出が遅れてしまったという。
稲盛氏は、経営者としての実績だけでなく、それを裏打ちする経営哲学も心酔されてきた。
さかのぼること約30年前、「週刊ダイヤモンド」(95年9月30日号)に掲載した、「最も尊敬する現役経営者ランキング」でも、それが見て取れる。
第1位の稲盛氏は、順位と共に選出理由も際立っている。「企業の原点を明確にし、哲学を高め、実践している」「優れた(経営)哲学とその行動力」と、「経営哲学」を理由に挙げる回答が並んでいる。
実際、その発言を読むと、“稲盛教”が瞬く間に布教していった理由もうなずける。本誌89年11月4日号の稲盛氏のインタビューは唯一無二の内容だ。「稲盛経営は、批判的な人の存在を認めないようだが?」との問いに、稲盛氏は「そのとおりだ。同質性を最優先する」と言い切ってみせた。
「目的を達成するのには、情熱と思いがいちばん大切なのだ。うまくいくと思い込んだ仕事は絶対うまくいく。批判されることが嫌いなのではなく、そういう思いが薄れるのがいやなのだ」
「時代が変わろうと、“目的達成”については、私が言うとおりでなければ、絶対成功しない」
時は変わり、10年前の2013年、JAL取締役を退任した直後の稲盛氏を直撃し、四半世紀越しに同じ質問を敢行した。
「同一の価値観を持った集団が強みを発揮するのは分かるが、多様な価値観のぶつかり合いが創造性を生むということも言えないか?」
稲盛氏の回答は秀逸だった。「そういうことを言う方は多いですね、特にインテリに」と質問を一蹴。
「心の状態という意味でのベースになる土壌は同じで、そこから出てくる発想、戦略、戦術は多様なものであるべきですよ。そこを、ベースの部分まで価値観というとおかしくなる。例えば、俺だけもうかればいいというえげつない価値観の人間と、優しい思いやりの心を持った人間が一緒にやってもうまくいきませんよね。そういう問題です」
多様性が尊ばれる時代にあって、同質性が持つ強みはつい軽視されがちだ。稲盛氏は時代が変わっても、自身の哲学を曲げずにJALを再建させた。組織にどのような同質性の土壌を敷き、どこに多様性があるべきなのか――。閉塞感が強まる社会を生きるわれわれも自問すべきなのかもしれない。
次ページからは、元ソニー社長の出井伸之氏や元松下電器産業社長の中村邦夫氏、さらには政治家の安倍晋三氏や石原慎太郎氏など、政財界の巨人が遺した金言の数々を振り返る。