ノーベル賞経済学者リチャード・セイラーが「驚異的」と評する、傑出した行動科学者ケイティ・ミルクマンがそのすべての知見を注ぎ込んだ『自分を変える方法──いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学』(ケイティ・ミルクマン著、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社)。世界26ヵ国で刊行が決まっている世界的ベストセラーだ。「自分や人の行動を変えるにはどうすればいいのか?」について、人間の「行動原理」を説きながらさまざまに説いた内容で、『やり抜く力 GRIT』著者で心理学者のアンジェラ・ダックワースは、本書を読めば、誰もが超人級の人間になれる」とまで絶賛し、序文を寄せている。本原稿では同書から、その序文を特別に紹介する。

【ここが違う】「頭のいい人、普通の人の考え方」決定的な差Photo: Adobe Stock

「あんなに賢い人はいない」

 ケイティに会う前、彼女のことをよく知る研究仲間からこんな噂を聞いていた。

「あんなに賢い人には会ったことがない」

「めっちゃ仕事が速くて、自分がダメ人間に思える」

「ありゃ機械だね。僕が1週間にやることを彼女は1日で終えてしまう」

 ケイティ・ミルクマンとは、いったいどんな超人なのだろう?

 ケイティに舌を巻く研究仲間の一人になったいまなら言える。ケイティはいろいろな面で実際に、私がこれまでに会った誰よりも賢く、はるかに生産性が高く、またケイティが成し遂げたことを考えると自分がスローモーションで動いているようにさえ思える。

 だがケイティは超人ではない。むしろあなたや私がめざす存在、本書で彼女が説明することを読めば誰でもなれる存在、つまり「超人級」の人間なのだ。

「人間的な性質」を意識している

 ひと言で言うと、ケイティ・ミルクマンは自分の人間的な性質を自在に操ることができる。目標や夢を実現するためにどんな行動を取ればよいかを知っている。

 ケイティは何をめざすときも、初めての試みは完璧ではないかもしれない。だがこれと決めたら、文字通りどんなことでもよりうまく、より速く、より効率的に行う方法をあっという間に学んでしまう。

 また、そうした方法の研究にキャリアを捧げてきた世界的に有名な行動科学者として、人間の厄介な性質と、それをもっとうまく操る方法をこれ以上ないほど深く理解している。

普通なら「ラクなほう」に流れてしまう

 友人づきあいが始まったばかりのころはよくわからなかったが、いまならわかる。ケイティもまた、人間的な欠点に悩まされているのだ。

 ケイティだってリンゴやほうれん草より、クッキーやポテトチップスが食べたい。仕事に戻るより、先延ばしにしたい。怒ったり、イライラしたりすることもある。

 工学畑出身でエンジニア気質のケイティは、こうした厄介なジレンマを、「解決すべき具体的な問題」ととらえている。この考え方こそが、ケイティをこれほど超人級の人間にしているのだと、私は思う。

 つまり、ケイティが身につけたのは、人間らしい衝動をなくす方法ではなく、それを理解し、その裏をかき、そしてそれに逆らう代わりに、できる限り味方につける方法なのだ。

 私自身、ケイティの教えのおかげで生活が大いに向上している。

 歩数が1万歩を超える日が増えた。メールを速く書けるようになった。生活をいろいろな面でもっと楽に、快適にする裏技を見つけられるようになった。

「永続的な行動変容」の仕組みをつくる

 ケイティがこれから説明する教えの多くは、私とケイティが「永続的な行動変容イニシアチブ」で行ってきた研究から生まれたものだ。

 私たち2人はここ5年にわたりこの意欲的なプロジェクトを主導して、習慣を変えるには何が必要かを研究してきた。

 日々のスポーツジムの利用率や、慈善寄付、ワクチン接種率、生徒の学業成績などを高めるための新しい方法を実験し、行動変容の科学を先導する新しい手法を生み出している。

 だがこれほどの難問は、2人だけの手にはとうてい負えない。

 だから私たちは経済学や医学、法学、心理学、社会学、神経科学、コンピュータ科学を含むさまざまな分野の、100人を超える指導的な研究者とチームを組んできた。

 本書ではケイティの研究と私たちの共同研究のほか、これら多くの研究者と行った取り組みが紹介されている。(中略)

「戦略的」に自分を動かす

 これからのページで、ケイティはあなたの知らないことを教えてくれる。

 新しい習慣を始めるときに、「適切なタイミング」を選ぶことの大切さ。

 どんなに強い決意も、いつの間にか記憶からこぼれ落ちるかもしれないということ。

 きついことを続けるには、その「重要さ」を意識するより、「楽しく」感じられるようにするほうが、ずっと有効な戦略だということ。

 そして何より、ケイティは会話のあいだ中、思いやりとユーモアを持って、彼女自身の限界を十分理解し、何が人間を動機づけ、行動に駆り立てるかをしっかり認識したうえで、「あなたの問題は何?」と問いかけてくれる。

「普通の人」はもやもやと悩む。
「頭のいい人」は具体的な問題として対処する

 きっとあなたは、ケイティが変わりたいあなたを本気で手伝おうとしてくれているように感じるだろう。世界トップクラスの行動科学者が友人として寄り添い、あなたが自分のことをもっと理解して、あなた自身も超人級の人間になれるよう、手を貸してくれているような気がするだろう。

 ケイティが勧めるアイデアを試してみると、なぜいままで考えつかなかったんだろうと思うはずだ。そしてあなたは新しい目で生活を見直し、ケイティでさえ考えもしなかった方法を次々と生み出すだろう。

 いまあなたと知り合ったばかりの人は、あなたがなぜ普通の人を悩ます衝動や葛藤と無縁でいられるのかと、不思議に思い始めるだろう。そしてあなたの仕事の速さをほめ、どうしたら毎日の生産性を高められるのかと訊ねてくるだろう。

 するとあなたは、友人のケイティのことを教える。そして訳知り顔の笑みを浮かべながら、「これを読んで」と言って本書を渡すのだ。

「なりたい自分になるためにどうしたらいいか、みんなが悩んでいる。私もそうだった。でもいまでは、日々の行き詰まりを『解決すべき具体的な問題』としてとらえる方法を学んだよ」と。

 よりよい生活を送る秘訣は、欲望も欠点もない超人になることではなく、最新の科学的知識をもとに問題を解決していくことなんだよと、あなたは言って聞かせるだろう。

 本書があなたの新たなスタートになるはずだ。あなたがスタートを切ろうとしていることを、とてもうれしく思っている。

(本原稿は『自分を変える方法──いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学』からの抜粋です)