地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』(王立協会科学図書賞[royal society science book prize 2022]受賞作)は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、西成活裕氏(東京大学教授)「とんでもないスケールの本が出た! 奇跡と感動の連続で、本当に「読み終わりたくない」と思わせる数少ない本だ。」、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者からの書評などが相次いでいる。本書の発刊を記念した著者ヘンリー・ジーへのオンラインインタビューの9回目。これまでの連載に続き、世界的科学雑誌「ネイチャー」のシニア・エディターとして最前線の科学の知を届けている著者に、地球生物史の面白さについて、本書の執筆の意図について、本書の訳者でもあるサイエンス作家竹内薫氏を聞き手に、語ってもらった。(取材、構成/竹内薫)

王立協会科学図書賞作家が語る SF的未来と「第四次産業革命」の行方とは?Photo: Adobe Stock

新型コロナと第四次産業革命

――では、新型コロナは今、第四次産業革命を加速させているとお考えですか?

ヘンリー・ジー:はい、そうだと思います。いずれ、こういうことは起こっていたのだと思います。

 もともと、企業の経営者は、オフィスに人を集め、椅子に座らせて、自分の部屋のなかで彼らを観察するのが好きなのです(笑)。

 しかし、いまは状況が変わりつつあります。人口動態も大きく変化しています。

 すでに、秘書のような仕事をする人工知能は増えてきています。その中には、あまりうまく機能していないものもありますが、今後は良くなっていくでしょう。

加速するSF的世界

 ですから、この動きは加速すると思います。

 SFの話に戻りますが、ウィリアム・ギブソンというアメリカの有名なSF作家がいて、彼は『ニューロマンサー』という作品を書いています。

 彼は「未来はすでにここにある。ただ均等に行きわたっていないだけだ」と言うのです。

 いったいどういう意味でしょうか。

 例をあげましょう。数年前、私は、イタリアの科学フェスティバルに講演に行きました。

 ミラノの空港で、私は自動運転車に乗りました。

テスラのモデルSと自動運転

 テスラのモデルSです。この車のなかにはほとんど何もありませんでした。

 ハンドルと大きなスクリーンがあるだけ。私は訊ねました。

「これは自動運転車か?」「そうだ、見せてあげよう」。

 というわけで、「時速100キロ以上の高速道路を走ったんです。

 ここはイタリア、ご存じ、フェラーリの国です。

 みんなすごいスピードで走ってるんだけど、運転手というか運転助手の人間は、ボタンにタッチして、のんびり座っているだけ。 

 車はちゃんと道路のコースに沿って走っているんです。そして運転助手は続けました。

「触る必要があるのは、車線を変更する時だけだ」。

技術はすでにある

 というわけで、すでに自動運転車は存在しています。

 自動運転車普及の問題は車ではありません。技術はすでにある。

 問題は人と保険と弁護士に関するもので、もし誰かが自動運転車によって殺されたり轢かれたりしたら、誰が責任を負うのか、誰が起訴されるのか、ということなのです。

 これは技術的な問題ではなく、法的な問題なのです。

 そして、そのような人間の小さなことが、ウィリアム・ギブスンの未来への適用を阻んでいるのです。

 もし、誰が轢かれるかを気にする人がいなければ、いまごろはあちこちで自動運転車が走っていることでしょう。

 私の古いボルボのステーションワゴンには小さな警報がついていて、他の車に近づきすぎるとピッと鳴るようになっています。

 今では、他の車ではさらに進化しています。

 実際に他の車に近づくことができないのです。

人間の持つ抵抗感

 ここで、人間が抵抗することについてもう一つ。

 86歳になる私の父は、駐車スペースに自動で駐車できる車を持っています。

 しかし、何が起こるかわからないからと、これまで一度も試したことがありません。

 私の車が修理のために車庫に入ったとき、小さなヒュンダイの送迎車があったのですが、バックすると、まるでコンピュータゲームのように、私の後ろにあるものを示す小さな画像がスクリーンに出てきて、これは見事だと思いましたね。

 そして、そこから車が完全に自動で処理するようになるには、ほんのわずかなステップしかありません。

 基本的には人間が、人にぶつかるのが怖いとか、そういう理由で未来の実現を止めているんです。

 しかし、自動運転も含めた第四次産業革命は、これから加速していくと思います。

王立協会科学図書賞作家が語る SF的未来と「第四次産業革命」の行方とは?ヘンリー・ジー
「ネイチャー」シニアエディター
元カリフォルニア大学指導教授。一九六二年ロンドン生まれ。ケンブリッジ大学にて博士号取得。専門は古生物学および進化生物学。一九八七年より科学雑誌「ネイチャー」の編集に参加し、現在は生物学シニアエディター。ただし、仕事のスタイルは監督というより参加者の立場に近く、羽毛恐竜や最初期の魚類など多数の古生物学的発見に貢献している。テレビやラジオなどに専門家として登場、BBC World Science Serviceという番組も制作。このたび『超圧縮 地球生物全史』(ダイヤモンド社)を発刊した。本書の原書“A(Very)Short History of Life on Earth”は優れた科学書に贈られる、王立協会科学図書賞(royal society science book prize 2022)を受賞した。
Photo by John Gilbey

(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉への著者インタビューをまとめたものです)