曖昧な上司の「頭の中」を会話で言語化していく

――なるほど。のなかには、下図のようなマトリックスをもとに、「フェアウェイ」と「OBゾーン」を塗り分けていくプロセスが書いてあって、すごくわかりやすかったです。

石川 言語化できない相手には、このようなマトリックスを実際に見せながら質問をしていったほうが、「フェアウエイ」と「OBゾーン」のイメージを共有しやすくなります。ちなみに、図のなかの「ラフ」というのは、「OB」ではないが、上司にとって「積極的に進めたい事業ではないゾーン」のこと。私もよくホワイトボードにマトリックスを描いて、それを見ながら話を整理しますね。

 ただし、このようなプロセスが成立するためには、条件があります。上の人も下の人も両方が努力して会話するという姿勢です。お互いにこの姿勢がなければ、このプロセスはうまくいきません。

 逆に、このような会話さえできれば、「それってつまりどういうことですか?」「今の説明で理解できた?」といったやりとりの中で、曖昧だったイメージはだんだん言語化されていきます。

 特に注意すべきなのは、上の人でしょうね。部下からあれこれ質問をされて、うまく答えられない自分を見せたくないからか、「そんなことは自分で考えなさい」などと言ってしまう人もいます。そこまではっきりと口にしなくても、不機嫌な表情をするだけで、部下は萎縮して会話が成立しないでしょう。十分に注意したいところですね。

「壁打ち」のコミュニケーションが定着している組織は強い

――上下関係の会話を増やすためには、部下が安心して自由に発言できる場をあえてつくることも大事ですね。

石川 前にも話したリクルートの「壁打ち」のコミュニケーションがまさにそうで、壁打ちが頻繁に行われている会社はやはり会話が多いですね。でも残念なことに、会議で部長や役員が何かひとこと発言すると場が静まり返って、そこで議論がストップする企業も少なくありません。私は長年、新規事業のコンサルティングをしているので、そういう空気は会議に出ると一瞬でわかります。

 若い人から活発に意見が出る会社もありますが、そういう会社の上司たちはみな、「部下ともフラットに会話する努力」をしています。よく「会議で意見を言わない者は去れ」などという発言をする上司がいますが、私は逆だと思います。その上司が「部下ともフラットに会話する努力」ができていないから、若い人が押し黙るんです。そこに、「意見を言わない者は去れ」などと追い討ちをかけても会議が活性化することはないでしょう。

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無駄話や雑談でも言語化力は高まる

――たしかに、そうですね。会社組織は指揮命令系統で成り立っているとも言えますが、その前提としてフラットに「会話」ができる環境がなければ、いい仕事はできないですよね。

石川 そこが重要だと思いますし、そういう環境をつくることこそが、マネージャーにとって重要なディープ・スキルだと思いますね。

 やっぱりたくさん話して、コミュニケーションの量を増やさなければ、いいチームは生まれないし、いい仕事、いい事業は成立しませんよ。ところが、最近はコミュニケーションが減る傾向がありますから、要注意ですね。

 その典型が、リモート会議。パソコンの画面越しだといきなり本題に入ることが多くて、雑談ができないケースが増えている印象があります。私もZOOMで打ち合わせすると、「では早速、○○の案件についてですが…」といきなり切り出されると、「え? 何かひと言でも軽く話してから本題に入りません?」と思ってしまいます。

――おっしゃる通りですね。

石川 まぁ、これはリアルな職場でも一緒ですね。みんなパソコンに向かって作業していると話しかけづらいですもんね。それでも、たとえば技術系の人が見本市に行ってきたら、「この前行った見本市で、こんな新しい技術の話を聞いてきたんですよ」と、同じ技術系の人に言えば会話が生まれます。

 営業担当だったら、「お客さんからこんな業界情報を教えてもらったんですけど」と先輩に話せば、「その件だったら、僕のお客さんからこういう話も聞いた」と情報交換ができます。共通の話題から入れば、雑談でも会話が続くのです。

 その点で言うと、新しいビジネスがうまくいかない会社ほど、業務効率ばかり重視して無駄話をしていないんですね。でもビジネスのアイデアって、1人で机の上で考えて捻り出したものより、人との会話から生まれたもののほうが面白いケースが多いんです。

 地域再生の仕掛け人と言われている剱持勝さんも、「1人の天才によるビッグアイデアより、10人で試行錯誤したアイデアのほうが成功確率は高い」とおっしゃっていて、「ああ、いい言葉だな」と思いました。それくらいビジネスの現場では、言いたいことを言い合える会話が不可欠なのです。これを実現するディープ・スキルを磨きたいものです。

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