森林は「インターネット」であり、菌類がつくる「巨大な脳」だった──。樹木たちの「会話」を可能にする「地中の菌類ネットワーク」を解明した『マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険』がいよいよ日本でも発売された。刊行直後から世界で大きな話題を呼び、早くも映画化も決定しているという同書だが、日本国内でも養老孟司氏(解剖学者)、隈研吾氏(建築家)や斎藤幸平氏(哲学者)など、第一人者から推薦の声が多数集まっているという。本書の発刊を記念して、本文の一部を特別に公開する。
生態系には「変化する力」がある
生態系というのは人間の社会とよく似ている──関係性でできている、という意味で。
関係性が強ければ強いほど、その生態系は回復力が強い。
そして、この世界の生態系は個々の生き物によって構成されているものであるから、生態系には変化する力がある。
私たち生き物は環境に適応し、遺伝子は進化し、私たちは経験から学ぶことができるのだ。
一つの生態系はつねに変化している。なぜならその構成要素──木、菌類、人間──は絶え間なく、互いと、そして周囲の環境と、反応し合っているからだ。
生態系も、脳も、家族も…
すべては「つながりの強さ」次第
共進化に成功し、生産的な社会として成功できるかどうかは、ほかの個体、ほかの生物種とのつながりの強さ次第なのである。その結果としての適合と進化から生まれる行動様式が、私たちの生存、成長、繁栄を助けてくれる。
オオカミ、カリブー、木、菌類からなる生態系がつくり出す生物多様性は、木管楽器や金管楽器や打楽器や弦楽器の演奏者がオーケストラとしてまとまって、交響曲を奏でるようなものだと思えばいい。
それはニューロンと軸索と神経伝達物質で構成される私たちの脳が思考や思いやりを生み出すようなものでもあるし、兄弟姉妹が手を取り合って、病気や死による心の傷を乗り越えるようなもの、と言ってもいい。
全体は、それを構成する個々の部分を足し合わせたものよりも大きくなる。
森の多様な生物は、オーケストラのミュージシャンのように、会話やフィードバックや思い出や過去の失敗を通じて成長する家族のメンバーのように、結束して、混沌とした予測のつかない世界のなかでもわずかなリソースを活用して繁栄できるのだ。
森は「知性」を持っている
この結束によって森の生態系は、包括的で、何があってもしなやかに立ち直れるものになる。
森は複雑で、自己組織力を持っている。
知性と呼ぶのが相応しい特徴を備えているのだ。
森の生態系は人間社会と同じようにこうした知性の要素を備えている、と認めれば、木々はじっと動かず、単純で平面的でありきたりなもの、という古い概念を捨て去ることができる。
そうした古い概念がこれまで、森の急速な搾取を正当化するのに役立ってきたのであり、それが、森林における将来的な生物の存在を危険にさらしてきたのである。
(本原稿は、スザンヌ・シマード著『マザーツリー』からの抜粋です)